その一件のあと、何事もなかったように登校するのは、かなりの勇気が必要だった。

 沢本君は以前のように近づいてくることはなく、真鳥は欠席しているのか姿はない。

 朝から賑やかな教室に、椎名さんの後ろ姿が見えて緊張が走る。


「……おはよう、椎名さん」


 かすれた声が出る。


「結衣、おはよっ」


 振り返った椎名さんが、いつもどおり元気に挨拶を返してくれて、戸惑いと嬉しさでよくわからない感情に巻き込まれる。

 私が嫌われていたことを知っても、まだ話してくれるの?


「あの……、この前のこと、ごめんね。色々巻き込んでしまって」
「こっちこそ、沢本のこととか、知らなくてごめん。気軽に話してくれればよかったのに」
「……椎名さんに嫌われたくなかったの。今まで、私が嫌われていることを知った途端、急に無視されたり陰口を言われたりすることが多かったから」


 マイナスな考えばかり浮かべる私を、椎名さんは笑い飛ばした。


「何言ってんの。私が白坂さんのこと、嫌いになるわけない。そんなことで態度変えるってさ、自分も嫌われたくない弱い人間だったんじゃない? それは、本当の友達じゃないよ」
「椎名さん……」
「白坂さんのことは欠点も含めて好きになったの。欠点といっても、そこも可愛いと思ってるけどね」


 悪戯っぽく微笑んだ彼女が格好よくて、ますます憧れの気持ちが強くなる。


「そうだ、今度の休み、雑貨屋に一緒に行こうよ。約束してたでしょ」
「……うん、私も行きたいなって思ってたの。誘ってくれてありがとう」


 もう一緒には行けないと思っていたから、胸の中に温かいものが広がっていく。


「あと、私のことは緋彩(ひいろ)って呼んで。私も結衣って呼ぶから」


 泣き笑いになりながら、私は大きくうなずいた。