「――それって、都合がよすぎるんじゃないか?」


 不意に新たな声がして、木陰の向こうから一人の生徒が姿を現した。
 聞きなじみのある声の持ち主は、蓮先輩の親友だった。


「っ、千尋先輩……いつから聞いて……」


 未琴が真っ青になり、綺麗な顔を引きつらせる。
 まさに今、話題にあがっていた張本人がそこにいた。


「過去におかした罪って、消えないと思うんだよな。俺はさ」


 未琴の前に立った千尋先輩は、落ち着いた低い声で話し出した。


「相手が許してくれない限り、忘れたフリや、なかったことになんてできないんじゃないか」
「ごめん、なさい……」


 嫌悪の眼差しを未琴へ向けているわけではなかったけれど、いつもより冷たい空気を含ませている。

 未琴は微かに震えていて、ショックを受けていることは明らかだった。


「もし許してくれたとしても。相手の心には、ずっと傷が残るから。だから……、わかるよな? 未琴」


 幾分か和らいだ視線を受けた未琴は、無言でうなずき、涙を一粒こぼした。

 その様子を見て、私たちはそっと校舎裏をあとにする。

 夕陽が地平線に消えるまで、二人はその場で佇んでいた――。