それまで黙っていた未琴が顔を上げ、ためらいがちに口を開く。


「柏木先輩。私が関わっていること、いつから知ってたんですか?」
「確信を持ったのは、ついさっき……かな」
「じゃあ、千尋先輩は……?」
「千尋には、まだ言っていない」


 複雑な表情で、未琴は唇を引き結んだ。
 何かを悔いるように。

 千尋先輩の名前が未琴の口から出て、やっぱり……と私は思った。


「高校に入ってから私に近づいたのは、そういう理由だったんだね。未琴は全然私とタイプが違うから、不思議に思ってたんだ」


 千尋先輩との仲を深めるためと、私の記憶を消すために。
 もし過去の行いがばれても、私が認めなければ、なかったことにできるから。

 きっと、未琴はいじめに加担していた事実を忘れさせるため、真鳥に頼んだのだろう。
 友達でいてくれたのは、千尋先輩に近い場所にいた私を、監視する目的もあったかもしれない。



「結衣に近づいたのは、目的のためだけじゃないよ。ちゃんと、結衣と友達になりたくて声をかけたの。昔のことは全部謝るから……。お願い、千尋先輩にだけは言わないで」


 必死な様子の未琴の目に、じわりと涙が浮かぶ。
 いつも気の強い彼女の泣き顔を、初めて見た。