「傷つけられた側は、どれだけ時間が経っても、ずっとそのときの相手の表情が残る」


 まるで、自分もその経験をしたことがあるような言い方だった。


「いじめた方は覚えていなくても。そうやって嗤われた方は、いつまでも記憶に残っているんだよ。消えないんだ、その表情が。
 きっと、大人になっても……ずっと」

「……」

「自分の友人には、そんな顔はして欲しくない」


 そっと見上げた蓮先輩の表情は、軽蔑したものではなく――ただ哀しげだった。
 蔑みや嘲りを含んでいても、おかしくはないのに。


 いじめが良くないと言うんじゃなくて。
 そのときの表情が嫌だと言うなんて……、自分でも気づかないうちに、頬に涙が伝っていた。




 怒りやショックを隠し切れないためか、三井先輩は背を向けた。
 頬を拭う仕草をしたあと、校舎の方へ戻っていく。
 沢本君もそれに続いた。