「三井だって。今まで生きてきて、人から嫌われるようなこと、一度もしていないって言い切れる?」
「……私は、白坂さんほど嫌われたことはないと思うけど。いろんな男に媚びたりもしないしね」
皮肉げに笑ったあと、三井先輩は私の隣にいる沢本君に視線をやった。
「沢本。早くして」
顎をしゃくり、再度連れて行くように命じる。
「嫌われ者同士、さっさと仲良くしたら」
彼女が薄く嗤い、沢本君がためらう素振りを見せた瞬間――。
いつの間にかそばに来ていた蓮先輩に、力強く抱き寄せられていた。
沢本君からかばうようにするためか、距離が開く。
「蓮、何やってるの……? 正気?」
信じられない様子の三井先輩の声がした。
ドクドクと自分の心臓が鳴っていて、頬に蓮先輩の制服の感触がある。
過去をばらされ、嫌われてもおかしくないというのに、彼の腕の中にいることが不思議だった。
「その表情……。人をいじめるときの歪んだ表情、嗤った顔が昔から苦手なんだ……」
蓮先輩の低く抑えた声が、頭上から聞こえる。