「だ、誰か見てるかもしれないし、無理じゃない?」
「薄暗いし大丈夫だろ」


 辺りを見回す私へ、真鳥が一歩近づく。


「俺だって、したくてしてるわけじゃないんだからな? 儀式だと思えば、きっと何も感じない」
「……そっか。儀式ね」


 そう思えば、何とか我慢できなくもない。


「だから、この契約は女子限定にしてもらいたいね。男はムリ」
「あのー……、他の方法はないの?」


 できることなら、好きでもない人にキスをされるのは遠慮したい。


「あるよ一応。でも、かなりの痛みを伴うからな……」
「痛み?」


(何だろう、すっごく気になる)


「精神的な苦痛、3日間悪夢を見て熱を出すっていう話だよ」
「痛いのは嫌だなー」
「じゃあ今回は優しくするよ。痛くない方法で――」


 すぐそばまで近づいた真鳥が、私の左の頬に手を添える。


「まず練習してみようか。目を閉じて、一度頭の中を真っ白にしてから、忘れたい記憶をイメージして」


 私は指示されたとおり、目を瞑り柏木先輩と三井先輩が寄り添う姿を思い浮かべた。
 思い出したせいで、閉じた瞼に涙が滲んでくる。


 先輩に抱いていた想いを、無くしてしまいたい……


 そのとき、ふっと額に何か柔らかいものが触れ、私は目を開けようとした――。