校舎裏に現れた背の高い影は、椎名さんだった。


「沢本は、白坂さんがまるで自分を見殺しにしたみたいだと思い込んでいるんだろうけど――白坂さんはその後、先生に伝えていたんだよ」
「……っ、嘘だろ……」


 信じられないといった表情で、沢本君が私のそばからもう一歩後ずさる。
 椎名さんは私の方へ視線を移し、眉を下げた。


「ごめん、あのとき職員室に私もいたから、少し聞こえてた」


 ということは……椎名さんは、中学のときから私のことを知っていたの……?



「……じゃあ、途中で俺に対する暴力がなくなったのは、新たなターゲットを見つけたんじゃなくて――」


 沢本君は半ば放心状態で一点を見つめていた。


「そういうこと。白坂さんは見て見ぬふりはしていない」


 視線を沢本君に戻した椎名さんは、ゆっくりと言葉を選ぶようにして続けた。


「沢本が白坂さんに執着していた意味がやっとわかったよ」
「……」
「みんなが嫌いだからって、自分も一緒に嫌いになる? みんなが好きだからって、周りに合わせて自分も好きになるの? ――そうじゃないよね」


 項垂れた沢本君が、地面をただ見つめている。


「私も、白坂さんと同じ。沢本が昔いじめられていたとしても、それで嫌いにはならないよ」


 しばらく、夕陽の落ちかけた裏庭は静寂に包まれていた。