「白坂。俺にあんなことまでされて……あいつに知られたら、困る秘密ばかり持ってるな」


 意地悪く笑った沢本君は、低く耳元で囁いた。

 きっと私が色々と忘れているせいで、彼の指す言葉の意味は、ほとんど思い当たらなかったけれど。
 ただ、これだけは言える。


「秘密を知られて、嫌われたとしても……それでも私は、蓮先輩が好き。先輩の絵が好き」


 もう、嫌われてもいい。
 充分、先輩のそばにいられたし、たくさん幸せをもらった。
 何より、自分が嫌われるよりも、先輩を好きな気持ちを消したくない。

 ただ、先輩を好きでいたい。

 永遠に片想いだとしても。



「……もしかして。沢本君も、同じなの?」


 ふと、私は不穏な色をした彼の瞳を覗き込んだ。


「私みたいに、過去の秘密を知られて、人に嫌われてしまうのが怖かったの?」


 沢本君はギクリとした様子で表情を強張らせる。


「そんな過去があるからって、私は嫌わないよ」
「……は?」


 憑き物が落ちたように、彼は聞き返した。


「だったら……何であのとき、見て見ぬふりをした?」


 見て、見ぬふり……?


「――それは違うよ、沢本」


 不意にアルトの声が響いた。
 沢本君が私のそばから一歩離れ、声の主を睨みつける。