蓮先輩に、嫌われる……。

 それは私にとって、一番避けたい出来事だ。
 この世の終わりと言ってもいいくらいの――。


「おとなしく、俺と付き合っておけよ」
「……付き合わない」


 沢本君を睨むようにして断ると、彼の表情がみるみるうちに歪んでいった。


「じゃあ、ばらすからな。蓮先輩に。あのことを」
「あのこと……?」


 哀しげな目をした沢本君が、私の首に手を伸ばした。
 手のひらで首筋をなぞり、感触を確かめるように柔く圧をかける。


「本当に白坂は、俺の言うことを聞かないな」


 首にかかる両手に、それほど力は入っていない。
 いつ、力を込めて絞められるか。
 その緊張感だけがあった。

 以前も、今とほぼ同じ状況になったことがあった気がする。
 あれは確か、中学生のときに……。


「どうしたら、あいつのことを忘れる? ここまでしても、忘れないなんてな」


 彼の指が私の喉の上を滑る。


「俺のことは無視して、自分だけ幸せになろうとするなんて。都合がよすぎるんじゃないか?」