そっけない未琴の態度を寂しく思いながらも、放課後を迎える。


 蓮先輩のいる美術室は気まずくて入れず。
 そのまま帰ろうとしていたら、目つきの悪い沢本君に声をかけられた。


「白坂。ちょっと話があるから、一緒に帰るぞ」

「えっ……? ま、待って、やめてよ」


 痛いぐらいに手首をつかまれ、裏庭へ連れて行かれる。
 沢本君には何か、弱みを握られているような――嫌な感じがした。

 何のために、私をこんな薄暗い場所に連れてきたのだろう。
 私が沢本君のことも狙っている、という間違った噂を彼も耳にしたから?

 校舎の壁により行き止まりになったその空間で、私と沢本君は向き合う。
 手首はまだ離してくれない。


「白坂。柏木先輩だけでなく、俺のことも狙ってるんだって?」


 意地悪な笑顔で、彼が私を見下ろす。


「……違うよ、それはみんなが誤解してるだけで、」


 手首をつかんでいない方の手が、私の頬をゆっくりとなぞる。


「こんなに、うまくいくとは思わなかったな……」


 彼の目元が愉しげに歪んでいく。


「沢本君が、噂をばらまいたの……?」


 こわごわ尋ねた私に、クッと彼は肩を震わせた。


「このまま『俺と付き合い始めた』って噂を流したら、終わりだな」


 沢本君は勝ち誇ったように笑った。


「さすがにもう、嫌われるだろ。お前の大好きな柏木蓮先輩に」