「たとえば……、好きな人と一緒にいるときとかに」


 慎重に言葉を選びながら答えると、真鳥はしばらく黙ったあと、「そっか」と小さくつぶやいた。


「たぶん、記憶を取り戻すのに手っ取り早い方法が他にもあって」


 そう言いながら、真鳥は私の前髪の辺りを指差した。


「白坂の額にもう一度キスすれば、全て思い出せるはずなんだ」


 淡々とした口調で、あり得ない台詞を吐かれ、目を見開く。

 ……どういうこと?
 キスなんて、まさか真鳥とできるはずがない。


「……っ、ならいい。教えてくれなくても」


 慌てて断ったら、真鳥の言葉に違和感を覚えてハッとする。


 今……“もう一度”って言わなかった?
 キスをもう一度する――ということ?


 それは、いつか見たあの幻覚が、現実のものだと証明されたということで。私は確かに、真鳥からキスをされたことがあるらしい。