蓮先輩の案内で、ピアノのコンサート会場へ無事に着いた。
会場は木の香りがする広いホールだった。
すでに大勢の人が集まっている。
何気なく辺りを見回したとき。誰かに睨まれた気がして、急いで横を向く。
けれど特別、不審な人物は見当たらない。気のせいかと思い、そのままホールへ入場した。
渡されたパンフレットを片手に、指定席へ着く。
席はちょうど中央辺り。私は左隣に座る蓮先輩へ話しかけた。
「実は、母が佐伯遼のファンで」
「え、そうなの?」
「だから、前から私も知っていたんです」
「じゃあ、結衣のお母さんも誘えばよかったね」
「いえっ、私の母のことはお構いなく」
慌てて手を振ると、蓮先輩は薄く笑った。
「結衣のお母さんか……結衣と同じで優しい人なんだろうな」
「え……あんまり似ているって言われないですよ」
「そう?」
先輩は私の過去を知らないから、そんな風に褒めてくれるだけで。全てを知ったら、手のひらを返すみたいに冷たく私を見るのだろう。
いや、視界にすら入れてくれないかもしれない。