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side 蓮
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駅で結衣と待ち合わせたあと。
コンサートは遅い時間だし、もう少し長く会えたらと思い、見晴らしの良い河川敷の堤防に来ていた。
「ごめんね、約束の時間よりも早く呼び出して」
「いえっ、私も先輩と絵を描きたいと思っていたので。嬉しいです」
そんな風に言ってくれるのに、どうしてあのことには触れないのだろう。
中学のときに交わした、……あの約束。
持参していたスケッチブックを広げ、二人で堤防の階段に腰を下ろす。
真剣に景色とスケッチブックを行き来する横顔が綺麗で。白い肌に青みがかったピンクの唇が映えていて、視線がどうしても吸い寄せられた。
ただ、こうして会えただけで満たされて。でも結衣の方は違うのだろうと思うと、切なさがにじみ出る。
ほんの少しでいいから、自分との時間を楽しいと感じてくれたら……そう願ってしまう。
「あの。コンサートの前にお腹が空いたら困るから、と思って。塩パンを作ってきました」
結衣がペンを置き、ラッピングされた美味しそうなパンを手渡してきた。
「え、手作り? すごいね」
「あんまり上手に焼けなかったんですけど……この前のシロクマのチャームのお礼です」