「白坂さん……だったよね。私、あなたに良くない噂があるの、聞いちゃった」


 ドク……と、心臓が重く揺れる。


「あんな目に遭ったはずなのに、どうしてまだ蓮のそばにいるの? お願いだから、蓮に近づかないでくれる?」


 真正面から見据えられ、この場から逃げ出すことは許してくれそうもなかった。


「わかるでしょ? あなたがそばにいると蓮は迷惑するの。周りからも嫌われて、」
「――結衣。行こう」


 何かを言いかけた三井先輩を遮り、蓮先輩が私の手首を引いた。
 普段とは違う強引な力が、三井先輩のきつい口調と視線から逃してくれる。


「蓮!」


 そう呼び止めた彼女が追ってくることはなく、私たちはそのまま無言で校舎をあとにした。





「三井の言ったことは気にしなくていいから」
「……はい」


 手首をそっと放した先輩が、前を向いたまま、私の半歩先をゆっくりと歩く。
 たぶん蓮先輩は、私が自分の過去を隠したがっていると知っている。
 三井先輩の発言から、そう感じた。