「白坂さん……だったよね。私、あなたに良くない噂があるの、聞いちゃった」
ドク……と、心臓が重く揺れる。
「あんな目に遭ったはずなのに、どうしてまだ蓮のそばにいるの? お願いだから、蓮に近づかないでくれる?」
真正面から見据えられ、この場から逃げ出すことは許してくれそうもなかった。
「わかるでしょ? あなたがそばにいると蓮は迷惑するの。周りからも嫌われて、」
「――結衣。行こう」
何かを言いかけた三井先輩を遮り、蓮先輩が私の手首を引いた。
普段とは違う強引な力が、三井先輩のきつい口調と視線から逃してくれる。
「蓮!」
そう呼び止めた彼女が追ってくることはなく、私たちはそのまま無言で校舎をあとにした。
*
「三井の言ったことは気にしなくていいから」
「……はい」
手首をそっと放した先輩が、前を向いたまま、私の半歩先をゆっくりと歩く。
たぶん蓮先輩は、私が自分の過去を隠したがっていると知っている。
三井先輩の発言から、そう感じた。