モニカはマキウスを連れて、アーケードの中を散策した。

「モニカ、あの煌びやかな場所は何ですか?」
「ゲームセンターですね。私はたまにしか行かないので、あまり詳しくはないですが……」
「げーむせんたー? モニカの世界には、私の知らないモノや場所がたくさんあるんですね。
 あの隣の建物は? 独特な臭いもして、黄色く細長いものが入ったスープの様なものが描かれていますが……」
「ああ。あれは、ラーメン屋ですね。ラーメンっていうスープみたいなものが食べられるんです。臭いはスープに使っている醤油や出汁の臭いですね」

 道行く先で店や変わったものを見つけては、マキウスは新しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせた。

(マキウス様にもこんな一面があるんだ……)

 出会った頃の無表情にも似た表情と比べれば、今のマキウスはまさに雲泥の差であった。

(そういえば、最近、よく笑うようになったな……)

 部屋の外でも、マキウスはよく話しかけてくるようになったが、それ以外でもよく笑うようになった。
 表情も柔らかくなって、最初の頃にどことなく感じていた話しかけづらさは微塵も感じさなかった。
 これが、本来のマキウスなのだろうか。
 もしかしたら、今までの表情は、ハージェント男爵として、一騎士としての顔だったのかもしれない。

「モニカ、どうかしましたか? 私の顔をじっと見て……」
「い、いえ! なんでもありません!」
「そうですか……」

 また興味深く周囲を見渡し始めたマキウスを、モニカは微笑ましく見守っていたのだった。
 
 アーケード街の間にある大きな横断歩道を渡ると、二人は歩き続けた。
 横断歩道の信号を待つ間も、信号機や車、自転車にマキウスは興味津々であった。

「マキウス様、あれが携帯電話やスマートフォンのお店です」

 モニカはガラス張りの大手携帯電話ショップを指差した。
 店内には数人の人間がいたが、モニカがこの店に入ったことがないので、中に入ることは出来なかった。
 マキウスは店頭に貼られていたスマートフォンの最新機種のポスターをしげしげと眺めていたのだった。

「これは、先程、モニカが見せてくれた、あの板みたいなものですか?」
「そうです! これと同じ機械が売られているんですよ!」

 モニカは鞄からスマートフォンを取り出した。
 それを興味深そうに眺めてきたので、マキウスに渡したのだった。

「これで遠いところに住んでいる家族や友人と連絡を取れたり、情報を集めたり、写真を撮れたり出来るんです!」
「それは便利ですね。その、『しゃしん』というのは何ですか?」
「そうですね……。じゃあ、試しに撮ってみますね!」

 モニカはスマートフォンを預かってカメラを起動させると、近くの店頭にあった看板を撮影した。
 撮影した画像をマキウスに見せると、大きく目を見開いたのだった。

「同じものが二つ……!? これは絵ですか?」
「絵というと少し違いますが……」
「他には……他にはどんなものがありますか!」
「他ですか……。そうですね。他にもこのスマートフォンで文章を作れたり、地図を見たり、天気を見ることも出来るんです」

 メールの作成画面を開いて、マキウスにスマートフォンでの文字の打ち方を教えると、興味津々といった様子で文字を打ち始めたのだった。