無常にもモニカによって閉ざされた扉を見つめながら、マキウスは内心で大きくため息をついた。
(まさか、これを狙って、モニカは私と隊長を……)
はめられたと気づいても、もう遅い。
モニカたちが出て行くと、二人はしばらく無言で紅茶を飲んでいた。
やがて、ヴィオーラは深いため息をついたのだった。
「変わりはありませんか? マキウス」
「ええ。見ての通りです」
「不自由はしていませんか?」
「はい」
そこで、二人の会話は終わってしまった。
気まずい雰囲気の中、モニカを呼びに行こうと立ちかけると、ヴィオーラに呼び止められたのだった。
「たまには、姉弟水入らず、話しをしませんか?」
「と、いいましても……」
「モニカさんやアマンテだけではなく、外では他の騎士や貴族の目もあります。なかなかゆっくり話せないでしょう」
暗にお互いの立場を指しているのだと気づいたマキウスは、座り直すとため息をついたのだった。
「そうですね。ですが、私と貴女は、部下と上司であり、男爵と侯爵です。対等に話せる関係ではありません」
マキウスの言葉に、ヴィオーラは悲しげに首を振った。
「けれども、それ以前に、私と貴女は姉弟です。両親が亡くなった今となっては、唯一の家族です。……そうでしょう?」
ヴィオーラはテーブルの上で自らの手を強く握りしめていた。
そんなヴィオーラの様子に気づきつつも、マキウスは「そうですね」と、端的に小さく頷いたのだった。
「そもそも身分や階級が何です? 私たちは家族です。姉である私が、弟の貴方を見舞って何か問題がありますか?」
「それは……」
「母親が違っても、母親同士が険悪な仲でも、私にとって貴方は大切な弟です。
実の姉弟のように、大切に想っています」
「姉上……」
口から無意識のうちに溢れた言葉に、マキウス自身が一番驚いていた。
(わ、私は、何を……!? いや、間違っていないが、昔とは違い、私と隊長は立場が違っていて……!?)
内心で慌てているマキウスの様子に気づくことなく、悲しげな様子のまま、ヴィオーラは話を続けた。
「それに、貴方を地方の騎士団から呼んだのだって、弟だからというだけではありません。
貴方には実力があるのに、地方の騎士団で下級騎士をやっているのがもったいないと思ったからです」
自分と瓜二つの同じ紫色の瞳を隊長はーー姉は伏せた。
「私は騎士団で初の女性士官になりました。女性騎士は士官になる前に結婚して騎士を辞めるのが通例でしたからね。
そんな私を、他の騎士や士官はなかなか認めてくれませんでした」
マキウスはヴィオーラの話に目を見開いた。
「ちょうど、同時期にお母様が亡くなったこともあって、心に余裕が無くなっていたようです。
不意に寂しくなって、貴方と遊んだ日々が恋しくなりました」
「私と遊んだ日々ですか……?」
「お母様が亡くなり、他の騎士には認められず、私は子供の頃の楽しかった記憶ーーマキウスと過ごした日々を追想していました」
ヴィオーラは紅茶を一口飲むと、話を続けた。
「貴方について調べさせたら、地方の騎士団で末端に近い下級騎士をしている事を知りました。
けれども、騎士としての成績は優秀、入団時の試験も、叙任時も、並み居る貴族や騎士の中で上位に入っていた。
それなのに、身分が低いというだけで、ただの下級騎士。……もったいないと思いました。それで、私は貴方に声を掛けたのです」
(まさか、これを狙って、モニカは私と隊長を……)
はめられたと気づいても、もう遅い。
モニカたちが出て行くと、二人はしばらく無言で紅茶を飲んでいた。
やがて、ヴィオーラは深いため息をついたのだった。
「変わりはありませんか? マキウス」
「ええ。見ての通りです」
「不自由はしていませんか?」
「はい」
そこで、二人の会話は終わってしまった。
気まずい雰囲気の中、モニカを呼びに行こうと立ちかけると、ヴィオーラに呼び止められたのだった。
「たまには、姉弟水入らず、話しをしませんか?」
「と、いいましても……」
「モニカさんやアマンテだけではなく、外では他の騎士や貴族の目もあります。なかなかゆっくり話せないでしょう」
暗にお互いの立場を指しているのだと気づいたマキウスは、座り直すとため息をついたのだった。
「そうですね。ですが、私と貴女は、部下と上司であり、男爵と侯爵です。対等に話せる関係ではありません」
マキウスの言葉に、ヴィオーラは悲しげに首を振った。
「けれども、それ以前に、私と貴女は姉弟です。両親が亡くなった今となっては、唯一の家族です。……そうでしょう?」
ヴィオーラはテーブルの上で自らの手を強く握りしめていた。
そんなヴィオーラの様子に気づきつつも、マキウスは「そうですね」と、端的に小さく頷いたのだった。
「そもそも身分や階級が何です? 私たちは家族です。姉である私が、弟の貴方を見舞って何か問題がありますか?」
「それは……」
「母親が違っても、母親同士が険悪な仲でも、私にとって貴方は大切な弟です。
実の姉弟のように、大切に想っています」
「姉上……」
口から無意識のうちに溢れた言葉に、マキウス自身が一番驚いていた。
(わ、私は、何を……!? いや、間違っていないが、昔とは違い、私と隊長は立場が違っていて……!?)
内心で慌てているマキウスの様子に気づくことなく、悲しげな様子のまま、ヴィオーラは話を続けた。
「それに、貴方を地方の騎士団から呼んだのだって、弟だからというだけではありません。
貴方には実力があるのに、地方の騎士団で下級騎士をやっているのがもったいないと思ったからです」
自分と瓜二つの同じ紫色の瞳を隊長はーー姉は伏せた。
「私は騎士団で初の女性士官になりました。女性騎士は士官になる前に結婚して騎士を辞めるのが通例でしたからね。
そんな私を、他の騎士や士官はなかなか認めてくれませんでした」
マキウスはヴィオーラの話に目を見開いた。
「ちょうど、同時期にお母様が亡くなったこともあって、心に余裕が無くなっていたようです。
不意に寂しくなって、貴方と遊んだ日々が恋しくなりました」
「私と遊んだ日々ですか……?」
「お母様が亡くなり、他の騎士には認められず、私は子供の頃の楽しかった記憶ーーマキウスと過ごした日々を追想していました」
ヴィオーラは紅茶を一口飲むと、話を続けた。
「貴方について調べさせたら、地方の騎士団で末端に近い下級騎士をしている事を知りました。
けれども、騎士としての成績は優秀、入団時の試験も、叙任時も、並み居る貴族や騎士の中で上位に入っていた。
それなのに、身分が低いというだけで、ただの下級騎士。……もったいないと思いました。それで、私は貴方に声を掛けたのです」