「そうだったんですね……」
「今ではすっかり風化しましたが、大天使様の像が出来たばかりの頃は、ご尊顔もはっきり彫られていたそうです。……悠久の時の中で、大天使様のご尊顔の記録が失われてしまい、今では修復出来ず、そのままとなっていますが……」
ヴィオーラは紅茶少し飲んでひと息つくと、紅茶に大量のミルクを注ぎながら「話はこれで終わりではありません」と続けたのだった。
「それから数百年後。このレコウユスとガランツスが同盟の証として、『花嫁』を迎えた際、不思議なことが起こるようになりました」
「不思議なことですか?」
姉と同じく紅茶を一口飲んだマキウスが、大量の砂糖を入れながら首を傾げると、ヴィオーラは頷いたのだった。
「迎え入れた『花嫁』の中に、異なる世界から来た者が混ざるようになったのです。それも、何故か必ず王族に近い血筋が選んだ『花嫁』の中に……」
「王族に近い血筋ですか……」
モニカの呟きに、ヴィオーラはそっと頷く。
「そうです。何も『花嫁』を迎え入れるのは、王族や侯爵家だけではありません。他の貴族も迎え入れますし、商家が迎え入れたこともあります。それなのに、何故か異なる世界から来た者は、貴族や王族や王族の血を引く侯爵家が選んだ『花嫁』の中にだけ現れるのです」
「でも、私を迎え入れて下さったマキウス様は王族でも侯爵でもなく男爵ですよね。どうして……」
「失礼ですが、モニカ……」
隣から咳払いと共に低い声が聞こえてくる。
モニカが振り返ると、そこには言いづらそうに唇を歪めたマキウスの端正な顔があったのだった。
「今でこそ、私はハージェント男爵を名乗っていますが、元はブーゲンビリア侯爵家の人間です」
「あ……」
身分制度にあまり馴染みのないモニカは忘れていたが、元々、マキウスはブーゲンビリア侯爵家の人間であり、母親が亡くなった後、母親の生家であるハージェント男爵家に引き取られ、そこで男爵家の家督を継いだと話していた。
小さく口を開けて顔を真っ赤にしたモニカに、マキウスだけではなく、ヴィオーラとリュドヴィックも苦笑したのだった。
「す、すみません。忘れていて……」
「良かったですね、マキウス。これで貴方は紛れもなく、お父様の血を引く侯爵家の人間だと証明されましたよ」
「……せっかくなら、もう少し違う形で証明されたかったですね」
ヴィオーラの軽口を受け流したマキウスと目が合うと、マキウスは呆れたように小さく息を吐いていた。
「モニカはもう少し身分制度について知った方がいいですね。これから社交界のシーズンになれば、私のパートナーとして、貴族や王族が主催するパーティーに同伴する機会も増えるでしょう。特に貴女は『花嫁』なので、気になっている者も多いかと」
「私も社交界に行くんですか……!? 社交界ってあれですよね? 煌びやかなシャンデリアの下で、動きづらいドレスを着てダンスを踊ったり、見知らぬ貴族と会話をして腹の中を探り合ったり、刺客に命を狙われたり、毒を盛られたり、殺人事件が起きたり、酔っ払った人にセクハラをされそうになる、あの……」
「ダンスと腹の探り合いは否定しませんが、後半は否定します。貴女をそのような危険な目には合わせません」
「そうだぞ。私たちが守るから安心するんだ」
「可愛い義妹を危険な目には合わせません。私も騎士として、貴女を守ります。これでも腕には自信があるんですよ」
「あ、ありがとうございます……。マキウス様も、お兄ちゃんも、お姉様も」
マキウスだけではなく、リュドヴィックとヴィオーラにも言われて、モニカは胸を撫で下ろしたのだった。
「今ではすっかり風化しましたが、大天使様の像が出来たばかりの頃は、ご尊顔もはっきり彫られていたそうです。……悠久の時の中で、大天使様のご尊顔の記録が失われてしまい、今では修復出来ず、そのままとなっていますが……」
ヴィオーラは紅茶少し飲んでひと息つくと、紅茶に大量のミルクを注ぎながら「話はこれで終わりではありません」と続けたのだった。
「それから数百年後。このレコウユスとガランツスが同盟の証として、『花嫁』を迎えた際、不思議なことが起こるようになりました」
「不思議なことですか?」
姉と同じく紅茶を一口飲んだマキウスが、大量の砂糖を入れながら首を傾げると、ヴィオーラは頷いたのだった。
「迎え入れた『花嫁』の中に、異なる世界から来た者が混ざるようになったのです。それも、何故か必ず王族に近い血筋が選んだ『花嫁』の中に……」
「王族に近い血筋ですか……」
モニカの呟きに、ヴィオーラはそっと頷く。
「そうです。何も『花嫁』を迎え入れるのは、王族や侯爵家だけではありません。他の貴族も迎え入れますし、商家が迎え入れたこともあります。それなのに、何故か異なる世界から来た者は、貴族や王族や王族の血を引く侯爵家が選んだ『花嫁』の中にだけ現れるのです」
「でも、私を迎え入れて下さったマキウス様は王族でも侯爵でもなく男爵ですよね。どうして……」
「失礼ですが、モニカ……」
隣から咳払いと共に低い声が聞こえてくる。
モニカが振り返ると、そこには言いづらそうに唇を歪めたマキウスの端正な顔があったのだった。
「今でこそ、私はハージェント男爵を名乗っていますが、元はブーゲンビリア侯爵家の人間です」
「あ……」
身分制度にあまり馴染みのないモニカは忘れていたが、元々、マキウスはブーゲンビリア侯爵家の人間であり、母親が亡くなった後、母親の生家であるハージェント男爵家に引き取られ、そこで男爵家の家督を継いだと話していた。
小さく口を開けて顔を真っ赤にしたモニカに、マキウスだけではなく、ヴィオーラとリュドヴィックも苦笑したのだった。
「す、すみません。忘れていて……」
「良かったですね、マキウス。これで貴方は紛れもなく、お父様の血を引く侯爵家の人間だと証明されましたよ」
「……せっかくなら、もう少し違う形で証明されたかったですね」
ヴィオーラの軽口を受け流したマキウスと目が合うと、マキウスは呆れたように小さく息を吐いていた。
「モニカはもう少し身分制度について知った方がいいですね。これから社交界のシーズンになれば、私のパートナーとして、貴族や王族が主催するパーティーに同伴する機会も増えるでしょう。特に貴女は『花嫁』なので、気になっている者も多いかと」
「私も社交界に行くんですか……!? 社交界ってあれですよね? 煌びやかなシャンデリアの下で、動きづらいドレスを着てダンスを踊ったり、見知らぬ貴族と会話をして腹の中を探り合ったり、刺客に命を狙われたり、毒を盛られたり、殺人事件が起きたり、酔っ払った人にセクハラをされそうになる、あの……」
「ダンスと腹の探り合いは否定しませんが、後半は否定します。貴女をそのような危険な目には合わせません」
「そうだぞ。私たちが守るから安心するんだ」
「可愛い義妹を危険な目には合わせません。私も騎士として、貴女を守ります。これでも腕には自信があるんですよ」
「あ、ありがとうございます……。マキウス様も、お兄ちゃんも、お姉様も」
マキウスだけではなく、リュドヴィックとヴィオーラにも言われて、モニカは胸を撫で下ろしたのだった。