「また、リュド殿はこの戦いまでは、ガランツスの騎士団に所属していたそうです。貧民街で会った時に、リュド殿が持っていた盾を覚えていますか?」
「はい。何か鳥らしき絵が描いてあったような……?」

 貧民街でリュドヴィックに助けられた時、モニカを庇ってくれた盾には、翼を広げた何かの鳥が彫られていた。

「あそこに描かれていたのは、ガランツスの騎士団の紋章です。この国では、(ファルコ)と呼ばれている鳥です。ガランツスでは、フォーコンと呼ばれていたと思います」
「ファルコって鷹でしたっけ……?ということは、フォーコンも……?」

 首を傾げていると、「明日にでも書斎の図鑑を読んで下さい」と、マキウスは苦笑したのだった。

「ちなみに、私や姉上が所属するレコウユスの騎士団の紋章には、(ルーポ)が描かれています。
『強き者であれ。されど知恵と友愛を忘れるべからず』という意味らしいです」
「ルーポ……?」
「それも、図鑑を読んで下さい。動物図鑑は眺めるだけでも楽しいものです。子供の頃、病弱で寝たきりだった母上に付き添いながら、私もよく読んでいました」
「そうなんですね……。私も読んでみます!」

 無知なことを咎められるかと思いきや、図鑑を勧められて、嬉しいやら、恥ずかしいやら、何とも言えない気持ちになる。
 
「リュド殿はモニカをこの国に送り届けた後、騎士団を抜けて世界を旅していたそうです。自らの見物を広げ、腕を磨く為に。時には、レコウユスとガランツスを繋ぐ騎士としての役割も、果たしていたと」

 階段から落ちて意識不明になる前のモニカは、頻繁にリュドヴィックに手紙を書いていたらしい。
 だが、モニカが書いた手紙の内容までは、誰も知らず、またリュドヴィックからの手紙の返信も一度もなかったらしい。

「使用人の記憶では、モニカが最後に手紙を出したのは、階段から落ちる前日でした。それ以降は、送っていないかと……」

 伺う様に見つめられたので、モニカは頷く。

「私もお兄ちゃんがこの国に来なければ、『モニカ』にお兄ちゃんがいたことを知りませんでした」

 今のモニカは、「モニカ」に兄がいたことを知らなかった。
 これまで、忙しかったことを理由に、「モニカ」について考えていなかった。
 御國に兄妹や友人や大切な思い出があるように、「モニカ」にだってあるはずなのに。