「明日は出掛けるんですよね? そろそろ休みませんか。私、もう疲れちゃって……」
「休むには、まだ早い気がしますが……」
「今ので充分疲れました」

 モニカはマキウスを無視すると、机に置いていた絵本を手に取った。

「マキウス様。さあ、ベッドに来て下さい。私が読み聞かせをします!」

 先にモニカはベッドに入ると、隣をパシパシと軽く叩いた。
 ベッド脇の明かりを残して、室内の明かりを消したマキウスが渋々隣に入ってくると、モニカは持っていた絵本を開いたのだった。

「読み聞かせをすると言っていましたが、それは?」
「せっかくなので、読み聞かせの練習に付き合って下さい。近い内に、ニコラに絵本を読み聞かせしたいので」

 手元を覗いてくるマキウスに、モニカは絵本を見せた。
 この世界の子供向け絵本は、モニカが元いた世界の童話と似通った内容であった。
 登場人物の名前や舞台となる国の名前こそ違うが、グリム童話やアンデルセン童話とほぼ同じ内容であった。
 さすがに日本昔話は無いようだが、それでもジャータカ物語や千夜一夜物語に似た内容の絵本もあり、これにはモニカも感動したものだった。

「私は子供ではないのですが……」
「それでも、聞いている人がいるのと、いないのとでは、練習の意味が変わってきます。
 それにこう見えて、元の世界では絵本の読み聞かせ講座に参加して、絵本の読み聞かせ方法も習っているんです。講座で習った内容を思い出す為にも、練習相手になって下さい。聞いていて損はさせません」
「随分と勉強熱心だったんですね」
「会社の関係もあって参加したんですけどね。
 元の世界では、子供向け用品や絵本を専門的に取り扱う会社で働いていたので」

 御國だった頃、新卒で入社した会社が、入社後わずか半年で倒産し、その後、子供向け用品や絵本を専門的に取り扱う会社に就職した。
 繁忙期は連日の様に残業があったが、それなりに仕事にやりがいを感じていた。対人関係も程々に上手くいっていたと思う。
 会社にはよく新商品の子供向け用品や、新刊の絵本が見本として届き、時には店頭よりも早く手に取れるのが良かった。

 その取引先の絵本の出版社から、近々、県内にある図書館の児童書担当の図書館員を招いて、絵本の読み聞かせ講座を開催するので、参加してくれないかと申し出があった。
 いわゆる講座のサクラの依頼であったが、以前から絵本の読み聞かせに興味があったモニカは、会社の命令もあり、自ら進んで参加したのだった。

 その時は、いつか結婚して、子供が生まれた時に役立つかもしれないと思って参加しただけだったが、まさか本当に役立つ日が来るとは思わなかった。

 モニカから読み聞かせ講座に関する話を聞いたマキウスは、「そうだったんですね」と納得したようだった。