結月の温もりが感じられる時間は確かに心地が良かった。
でも、一瞬目を閉じようとした私に現実が頭をよぎって顔を離した。
「ダメ……」
 下を向いていて結月の顔を見ることができない。
今見てしまったらこの感情がおさまらないとわかっていたから。
「あなたはまだ高校生。私はもう……」
「じゃあ待つ」
 結月の力強い声が聞こえ、私は顔を上げた。
「俺がさとみんと真剣に付き合える年齢になるまで待つ」
 その時の結月の目は忘れられないほどまっすぐな目だった。
その瞳に吸い込まれそうになり私は視線を外してしまう。
「それまでに俺はさとみんにつりあう男になってみせるから。約束する」
 この子が私と恋をできるのはまだまだ先。
でも、一度開けたこの心を捨てることはできなかった。
言葉と感情が葛藤していると結月がまた口を開いた。
「それまでさとみんが目移りしないように俺は毎日メールするから」
「毎日はいいよ」
 思わず毎日という言葉に反応して笑ってしまう。
その様子を見て結月も笑顔を見せる。
「やっぱりさとみんは笑ってた方がいいよ」
 いつの間にか結月の目を見ることができていた私の心は清々しい気分になっていた。
「俺がさとみんを笑顔にできるように頑張る」
 もう一度真剣な目を見せた結月。
年下なのに自分の意思がしっかりしている結月は頼もしかった。
私もこんなにまっすぐに生きていればよかった。
でも、その後悔も今は消えている。
この子に負けないくらい私も心をきれいにしよう。
これからそうしていけば真っ暗だった未来が少しずつ色づくかもしれない。
「私も結月にふさわしい大人にならなくちゃね」
 笑って見せると結月はきれいな白い歯を見せた。

 結月と別れるころには私の中にあった重い心が軽くなった気がしていた。
待っていよう。
でもその決心が揺らぐことなど考えていなかった。