風で足にスカートが引っ付く。
そんな感覚を覚えるのも久しぶりだった。
家から歩いている間、気持ちはそわそわしていた。
駅までの道のりは早いような気がしている今日だった。

 駅について人の流れを見る。
その中で私は見つける。
「お待たせ」
 声をかけると携帯から私に視線を変えるのは結月だった。

あれから結月とはいつも通り会話をしていた。
その中で一度も結月は一彦のことを口に出さなかった。

 少し驚いた表情を見せる結月だったが、すぐに笑顔へと変わる。
「可愛いじゃん」
 その言葉で顔に熱が入ったことに気づく。
久々にスカートをはいた私はずっと慣れない感覚でいた。
「はい」
 結月は言葉と一緒に手に持った袋を差し出す。
その袋は可愛くて結月が待っている間持っていたことを想像すると思わず笑いたくなる気分だった。
「どうしたの?」
「いいから開けて」
 そう言われて可愛い袋の中を見るとまた包装されている。
その包装を開けるとハートの形をした香水のボトルが入っていた。
「え……」
「誕生日プレゼント。バイト代で買ったからそんなに高いのじゃないけど」
 少しピンクがかったそのボトルは私が女性だということを思い出させてくれるようだった。
「ありがとう」
 どんな顔をしてお礼をすればいいかわからなくなって素直に言葉が出なかった。
「今日はお祝いしてあげるから」
 満面の笑顔を見せる結月は可愛らしいなと思った。
でも言葉はやっぱり素直には出てくれない。
「30にもなるとお祝いも複雑になってくるのよ」
 わざわざ祝ってくれようとしている結月に対してどうしても冷たい態度をとる自分が嫌だった。
それでも結月は嫌な顔をしない。
「いいじゃん。楽しめるものは楽しまないと」
 笑う結月の顔を見て、少し微笑みがこぼれる。
「行こう。今日は僕のデートプランに付き合ってくれるんでしょ?」
 この間の約束で実現した今日。
この間まで待ち合わせは罪悪感をともにしていた。
でも今日は楽しいという感情が少しだけあった。
「はい」
 また結月が手を差し出してきて私は首をかしげる。
「手、つなごう」
 その瞬間に私は顔から火が出るようだった。
それを面白がっているのか結月は笑った。
「嘘だよ。さとみんが彼女になってくれるまで我慢する」
 またからかわれている。
でも悪い気はしなかった。
「でも、さとみん」
 急に真剣な顔を見せてきた結月に私は口をぽかんと開けている。
「俺はいつでも待ってるから」
 急に男らしい結月を見たとき、私の心が揺れた。
素直に「ありがとう」も言えなければ、そのほかにいい言葉も見つからない。
それはきっと今までの行為が汚れてたから。
何を言っていいのかわからず目をそらした私の頭に結月が手をのせる。
「そんな顔しないで。今を楽しもう。楽しませて」
 そういって白い歯を見せる結月にただうなずく姿しか見せられなかった。
「今度こそ行こうか」
 笑って歩き始める結月は私の歩幅に合わせてくれる。
新鮮だった。私の横を歩いてくれるのは。
こんなにも普通のことなんだ……
心の中で思っていた。年齢が違えばもう少し違う世界が待っていたのかもしれない。
楽しい気持ちの途中で時々そんなことを考えていた。