結月のあの姿がずっと心に残ったまま私は待ち合わせ場所に向かった。
少し時間が過ぎていたため早歩きするがきっとまだいないだろうと焦ってはいなかった。

 待ち合わせ場所に着くと、そこには一彦の姿があった。
いつもなら予定より遅れてくる一彦が先にいることにやはり違和感があったがいつも通りを装って一彦に駆け寄る。
「ごめん、待たせたね」
「あ、うん」
 いつもと違う一彦。それは一瞬でわかった。
その一彦の顔を見て、先ほどの結月の顔が思い浮かぶ。
「ちょっと場所変えよう」
 そう言うと一彦は私とは目を合わせず先を歩く。
少しずつ緊張感が高まり、これから何かが起きることはわかっていた。
それは確信に近かった。
きっと私はこの先のことで悩むんだ。
でもどこかで心が言っている。
真実を、現実を知りたいと……

 足を止めた一彦の一歩後ろで私も足を止める。
そこでも一彦は目を合わせない。
沈黙の時間がどんどん現実を教えてくる。
一彦が口を開けるとき、私は逃げ出したかった。
足に力が入るほど、この先を聞きたくなかった。
でも、けじめだ。そう思ったら動くことはできなかった。
「俺、子供ができた。父親になるんだ」
 前を向けなかった。心にも何かが刺さるように傷ができた気がした。
息ができない。そんなことを思うのは初めてだった。
唇をいつの間にかかみしめていた。現実を受け入れるための行動だった。
そんな私を見ても一彦は続けた。
「ミサにはバレてないんだ」
 その言葉を聞いたとき、力が抜けた。
それは安心でも期待でもない。
「今なら取り返しがつく。だから……」
 一彦の言葉の途中で私は平手が出ていた。
それは自分が捨てられたからではない。
現実を受け入れるためでもない。
ただ一つ。
幸せを作る私の仕事。
何人もの幸せを見てきた。
それにも関わらず私は人の家庭を壊した。
それがわかっていても一彦を許せなかった。
私の中にあった仕事への気持ち。そして女性としての気持ち。
「取り返しなんてつくわけない。この行為は私を含めて許されない行為なの。それをバレているバレていない。取り返しがつくから。そんなの通じるわけないでしょ!」
 今わかった。
真実を知った時、何より悲惨で寂しい思いをするのはミサさんだ。
自分は幸せを踏みにじった。
今できるのは一つだけ。
これ以上、幸せを壊さないために正しい道を示すこと。
「ミサさんと子供。これからはその存在がいることを忘れないで。もう私とは二度と会わなくていい。今までの間違った行為の分幸せにして」
 私が言うことではないことはわかってる。でも、せめて今まで自分がしてしまった分、せめてもの罪滅ぼしとして自己満足でもしなければならないと思った。

 私の恋は、止まったままだった恋心はここで終止符を打つ。
私はその場を去った。