疲れた体をほぐすように私は大きく背伸びする。
背伸びをすると背中に軽い刺激が来て、やはり疲れているということを自覚する。
仕事が終わって自分の荷物を整理していると携帯が小さく光っていることに気づく。
でもこれはいつものこと。
「まただ……」
 最近毎日この言葉を言っている気がする。

 携帯を見ると、いつも同じ名前が映っている。
とりあえず内容を見ると、二件入っている。
それを開いた私は目を見開いて、焦りながら荷物をまとめて仕事場を後にする。

 仕事場から出て私は周りを見渡した。
「こっち」
 かすかに聞こえたその声を敏感に拾う。
「何してんの?」
 私の鋭い言葉の行先は結月。
「何してるって。さっき連絡したでしょ。仕事場の近くにいるって」
「だからなんで仕事場知ってるのよ」
 いろいろ聞きたいことが山積みになっている中、とりあえず根本的なところからと思う私に対して結月は何食わぬ顔を見せる。
「親父が知ってたから」
「だからって来なくてもいいでしょ」
 ため息交じりに言う私を見ても笑顔で近寄ってくる結月。
「だって会ってくれないじゃん。それに……」
「それに?」
 あからさまに不機嫌な態度をとる私。
いつもならこんな自分の感情を表に出さないのに。
やっぱり最近私はおかしい。
「忠告しに来た」
「何それ」
「別れた方がいいよ」
 その言葉で私は一機に青ざめる。
「なにが?」
 その時今までの不機嫌な態度から作り笑顔に変わっていた。
「不倫してるんでしょ」
 その言葉に何も返せない私。
だんだんとうつむいていくのにも気づかず、次に何を言えばいいのか考えるしかなかった。
「なんで……」
 こぼれた言葉を結月は落とさず拾う。
「俺の親父とあの一彦ってやつ仲いいから。結婚してるのも知ってる」
 続ける言葉が私の胸を締め付ける。
「さとみんとあいつが二人で会ってるのたまたま見た。もう……」
「わかってるわよ!」
 いつもとは違う私の口調。
でもそんなこと気にしている余裕はなかった。
私のたまった感情が爆発したようだった。
「なんであんたにそんなこと言われなくちゃならないのよ」
 いつしか息も切れ、気づけば頬に何かが伝う。
それが涙と気づいて必死に拭う。
必死に拭う私の手を掴んだのは結月だった。
「離してよ。どうせ遊び相手なんでしょ。だったら……」
「遊びじゃない。本気」
「え……」
 その言葉を疑うように私は結月を見た。
「俺、さとみんに一目ぼれしたから」
 その言葉を飲み込めずに私は茫然とした。
「言いたいのはそれだけ。じゃあね」
 涙の止まった私に一言残す結月。

 何が起きているのかわからなかった。
気づいたころにはもう結月の姿は見えなかった。