彼女はクスリと笑って、再び窓の先を見る。
「ごめんね。私、何言ってるんだろう。今の全部忘れて・・・」
「悪くないよ」
 畳もうとした彼女の言葉を遮るように僕は言う。
 窓から差し込む夕日の光が、太陽が沈んでいくにつれて強くなっているような気がした。
「・・・え?」
「浮気をした奴が一番悪いに決まってる。周囲の人間や環境のせいにして罪から逃げようとすることは、加害者側の勝手な言い分だ」
 彼女は僕の言葉に何も言わない。ただ黙ったまま僕を見て、続きを待っていた。
「だから、君と君のお母さんは何も悪くない。浮気をしたそいつが身勝手なだけだよ」
 言い切って僕は彼女の方をちらりとみる。
 彼女は僕を見つめたまま、頬に涙が一滴伝っていた。
 その様子を見て内心慌てる。まずい、踏み込み過ぎたか?
 無遠慮に彼女を傷つけるような事を言ってしまったのかもしれない。
 言葉というのは難しい。伝える側が発する意味とは裏腹に、受け止める側は自分の心境から近い意味合いから解釈しようとしてしまう。
 今僕が言った彼女を肯定するかのような言葉は、彼女のプライベートで都合の悪い部分を踏み荒らすような行為だったのかもしれない。
 彼女は袖で流れた涙と目元を拭い、笑い声を漏らす。
「そう言ってもらえると嬉しいな」
 目を細めて小さく笑い、綺麗な横髪を耳の上に掛ける。