二つ目のバス停が過ぎ、彼女は病院が遠くへ離れていく度嬉しそうに肩を震わせていた。
「どこに連れて行ってくれるの?」と彼女は楽しげな様子で聞いてくる。
 特に警戒した様子もなく、澄んだ瞳で見つめられる。
「着いてからのお楽しみだよ」
「なにそれ?もったいぶるなー」
 くすくすと笑い、僕も自然に頬が緩んでしまう。
 彼女の子供っぽい一面を見る度、僕はホッとするような心境になった。
 それからバス停を通り過ぎていく度に乗車人数も増えていき、周りを気にして僕達はあまり言葉を交わすことはできなくなったがチラチラと彼女は僕の方を確認するように見てきた。
 視線が合う度彼女は微笑み、合わせて僕も笑い返していた。
 こうしていると、僕達が別れた日のことが嘘のように思えた。
 数十分後、バスは停車する。
 僕は車椅子を押しキャスターを転がし始めた。

「ねぇ、リョウ。ここって・・・」
 彼女は周囲のビルよりも一際高くそびえ立つ建物を見上げながら言う。
 外壁は植物のツタや花が上から下へと垂れ下がり、一定の間隔で設置されたルーバースクリーンはホテルの様な高級感を演出していた。
 フィックスサッシは晴れ渡る青い空を反射し、その透明さに吸い込まれていくようだった。
「懐かしいな。といっても僕達は夢の中で一度来たけど、あの時は何一つ覚えていなかったから」
 彼女は口を噤み、感慨深そうに建物を見続ける。
 僕達が再会して最初に訪れるべき場所は、ここ以外に思いつかなかった。