そして僕は、彼女の姿を捉える。
 彼女は目を見開き、口を小さく開けたままこちらを見ていた。
 互いに視線を交わしているはずなのに、言葉を発することなく呆然としていた。
 夢から覚めた時点で、僕は彼女に関する記憶をすべて取り戻していた。
 彼女との出会い、たどたどしくも互いを信じ歩んできた日々、唐突に彼女から別れを告げられた日、幸せと苦しさが入り混じったような思い出が僕の心の中に確かにあった。
 そして今目の前にいる彼女は、僕の愛した木村ユリナそのものだった。
 長く伸ばされたサラサラな黒髪、ぱっちりとした大きな瞳、薄ピンク色の小ぶりな唇。
 元々幼い顔立ちで、夢の中で見た少女の面影がしっかりと残っていた。
 彼女の瞳が小さく揺れる、僕の言葉を待っているように見えた。
「ユリナ・・・」
 不思議なものだ。
 あれだけ会いたいと焦がれていたはずなのに、いざ彼女の目の前に立つと何も言えなくなってしまうのだから。
 僕はそっと目を閉じ、次に開いた時と同時に笑みを浮かべる。
「おはよう、よく眠れたかい?」
 何言ってんだよ、と僕は心の中で失笑する。
 夢から覚めてから初めての再会、だからこそ道中に決まったセリフを考えていたのだが、いざ口にしてみると恥ずかしくて仕方がなかった。
 彼女はしばらく呆気に取られていたが、僕の心中を察したのか可笑しそうに笑い始めた。
 大袈裟なくらい大きな声で、身を捩らせ顔をベッドに埋めていた。
 笑いの波が落ち着いてくると肩を震わせながら体を起こす。
 目に溜まった涙を指先で拭き取り微笑んでいた。
「もう、なにそれ。かっこ悪い。それに今お昼前だよ」
 ははっ、と余波にやられたのか口元を手の平で覆う。
「確かに、でも笑いすぎだろ」
 僕は頬をポリポリと掻きながら乾いた笑いを出す。
 感動的な再会を狙ったのだが、思った以上に上手くいかないものだな。
 ひとしきり互いの気持ちが落ち着くと、僕達はまた視線を交わし合う。
 そこにはもう緊張感は混在していなかった。
「ユリナ」
「うん」
「これから、時間あるかな?」
 彼女は目を細めてクスリと笑う。
 その仕草は夢で見た少女と重なり微笑ましかった。
「もちろん!」