天井の黄ばんだクロス、数秒おきにチカチカと点いたり消えたりを繰り返すシーリングライト。
吸い殻が山の様に積もった灰皿からは鼻を刺すような激臭が漂い、ローテーブルの上には中身のない缶ビールが規則正しく並べられ、その他の置き場を失った缶たちは床一面に散らばり倒れていた。
見覚えがある、本当の自分の部屋に帰ってきたのだ。
清掃して見違えるような変化を遂げた自室を見てきたから、尚更ここは醜い場所の様に思えた。
息をした死体が住むには不自由のない環境だったが、夢から覚めた今の心境にこの部屋の空気感はそぐわなかった。
立ち上がり、洗面所へ向かう。
照明を点けて鏡を見ると、二十二歳の僕が映る。
目にかかるほどの前髪、かさかさに乾燥した肌、生気を抜かれたような風貌。
未来の僕が言ったように、昔の僕は可愛かったんだなとひしひしと感じる。まるで別人だ。
以前の僕ならこんなひどい有様になった僕と再会しても彼女は喜ばないと思い、何も行動を移さず引き続き殻に籠っていただろう。
でも今は、立ち止まっていられなかった。
一刻も早く彼女の元に行かなくてはという使命感の方が気持ちを強く突き動かした。
こうしている間にもタイムリミットは差し迫っている、時間は一秒たりとも待ってくれない。
僕は簡単な身支度と最低限の荷物をポケットに詰め、部屋から飛び出した。