「リョウ君が好き」
 意識が一瞬で引き戻される。
 その言葉の意味を理解するまで、相当の時間を有した。
 揺れる前髪、澄んだ瞳、結ばれた唇。
 彼女から与えられる情報の全てが、僕の心の奥に浸透していく感触があった。
 それは温かくて、優しくて、柔らかく包まれていくようだった。
「僕も、好きだよ」
 そう伝えると、彼女はクスリと笑う。
 出会った時から好きだった彼女の笑顔、最後に見ることができてよかった。
 永遠に続くと錯覚した夜にも、必ず終わりは来る。
 それは夢が覚めるのと似ていて、同じ場所に留まることはできないのだ。
 僕達は同じベッドに入り、互いの思いを寄せ合うように抱きしめ合う。
 そこに不純な思いは混在しない、ただ愛しさ故に生まれた行動だった。
 溶けてしまいそうな温もりを彼女は僕に送り続け、啜り泣くような声が胸元から聞こえてくる。
 僕は彼女の髪に顔を埋め、目を閉じる。
「おやすみ」
 回された手が強く引き寄せられる。
 世界から離れつつある、真っ暗闇な空間の中で彼女の声が聞こえる。
「おやすみなさい」
 掠れながらも明るい口調で返す彼女。
 感じていた彼女の体温が、徐々に薄くなっていく。
「また、いつか」
 ここで僕は意識を失う。
 世界と世界を移動する空白の時間。そこに僕の自我は存在しない。
 何かを叫びたがっているのに、それが何なのかも分からなければ口を開くことすらままならない。
 無重力の空間を抵抗の余地なく流されていき、これから向かう世界の感覚が少しずつ覚醒していく。
 僕の見た不思議な夢旅は、こうして終わりを告げた。