彼女の呟くような声が聞こえ、僕は顔を上げ彼女を見る。
 下に俯き、わずかに覗く表情には陰りが差していた。
「夜になる度、新しい明日がようやく来るんだって、ワクワクしてた。でもリョウ君が来て、怖くなった。
 ずっと一人で遊んでいたから、誰かとゲームをしたり、街に行って出歩いたり、食事を一緒にするなんて、なかったから。すごく楽しかった・・・。
 でももし起きてリョウ君がいなくなっていたら、私は泣くと思う。
 今まで一人でいて寂しいなんて思わなかったけど、きっと寂しくなるんだと思う。
 誰かといることがこんなに楽しかったなんて知らなかったから・・・」
 彼女はまばたきを何回も繰り返し、目からは今にも落ちそうな涙が輝き揺れていた。
 俯いた顔はこちらに向けられ、真っ直ぐに見つめられる。
「・・・ねぇリョウ君、どこにも行かないよね?ずっと私の傍にいてくれるよね?」
 震えた声を聞いて、僕は体の内に衝撃を感じる。
 何と返せばいいのだろう、きっと僕はいなくなる。
 もうこの世界で彼女の傍にはいられない。僕が隣に居るべき彼女は、別の世界にいるのだから。
 懇願するように彼女は唇を噛み、涙が一滴頬を伝った。
 ここで現実を伝えてしまえば間違いなく彼女を悲しませる、いや、きっと壊れてしまう。
 また一滴、一滴と涙がぽろぽろと零れていく。
 心中で激しく葛藤し、僕は覚悟を決める。仕方がない事なんだ・・・。
「・・・僕は、君の傍にはいられない。だからもう、お別れなんだ」
 視線を逸らさず、真っ直ぐに見て伝える。
 彼女の目からはダムに亀裂がはいったように次々と透明な涙が落ちていった。
 力の籠っていない手の平で僕の手を握り、ほのかな温もりは彼女の気持ちが流れ込んでくるようだった。
 どこにもいかないで・・・と。