恐らく明日は来ない、目覚めれば元の世界に戻っている事だろう。
 互いに少年少女の姿でいられる瞬間は、もう残りわずかだ。
「そういえば、ユリナは僕より早くこの世界にいたんだっけ?」
「え?そうだけど。それがどうかしたの?」
 彼女はお味噌汁を啜りながら答える。
 僕の感想に満足したのか、ようやく自分の作った料理に手を付け始めていたところだった。
 部屋に戻って彼女と話している内に、ある話題に触れない事に僕は違和感を覚えていた。
 何故彼女は、世界に夜が訪れたことに疑問を覚えないのだろう?
 彼女の性格を考えると、「リョウ君夜だよ!夜が来たよ!」とまず一番にはしゃぐイメージがあるのだが。
「いや、だって夜になったんだよ?今まで太陽がずっと出ていてこのまま沈まないんじゃないかってくらい昼が長かったから、僕びっくりしちゃって。ユリナは驚かないのかなって」
「驚くって・・・あ、そっか!リョウ君夜を見たの初めてだよね!」
 僕は肯く。
 彼女は合点しているようだが、僕は何が何やら分からない。
「この世界のお昼はね、とっても長いんだよ。でもいつか夜が来て、眠るとまたお昼になってる。お昼の時間が長い分、眠る時間もきっと長いんだろうね」
 筋が通っているようでおかしな理屈を彼女は言う。
 つまり、この世界の夜を彼女は何度も経験しているということだろう。
 しかしどうだろう、もし今この瞬間が元の世界の僕と彼女が互いに見ている夢の中だとしたら、彼女はずっと夢の中にいて僕がその中に誘い込まれたということだろうか?
 もしかして彼女は、元の世界の病室で昏睡状態に陥っているのか?だとしたら目が覚めて病室に行っても、彼女はまだ夢の中にいるのかもしれない。
 そうなると僕達の再会は果たせない、それは現状況で最悪の想像だった。
「どうしたの?ボーとして」
「・・・え?いや、なんでもないよ。そうなんだ。昼が長いんだね。知らなかったな」
 上手く表情が取り繕えず、乾いた笑いが出る。
 夢が覚めてどんな現実が待ち受けているのか、心の中にある雲行きが怪しくなってきた。
「でも、怖いな」