寝起きでボケていなければ煙草が残っていない事よりも先にこっちの方で驚いていただろう。
 僕の足は、今自分が履いているスウェットパンツを踏んでいたのだ。
 足全体を生地が覆い、明らかに丈があっていなかった。
 一回り大きなサイズを着ていたのか?
 いや、今まで使用していてそう感じることはなかった。
 不思議に思い、自分の体周りを確認するように見渡すとおかしな点ばかりが見つかる。
 手首は袖から出ているもののその先はぶかぶかでスリーブの長さに余りがあった。
 リブは足首の辺りにきており、ズボンは立ち上がるとずり落ちてしまいそうな程ぶかぶかだ。
 手の平を広げまじまじと見ると子供の手の様に小さくぎこちない形をしていた。
 そう考えて混乱する。
 まさか、そんなはずはない。
 立ち上がると、案の定ズボンとパンツが腰から落ちるがお構いなしに脱衣所へと向かった。
 洗面台に置かれた鏡を見ると僕の顔がかろうじて覗くような形になり、視線を下にやると洗面ボウルの上端がすぐそこに映った。
 自身の幼い顔立ちを見て一瞬他人が映り込んでしまったような錯覚を覚える。
 ぱっちりとした大きな瞳、小粒の様に可愛らしい形をした小さな鼻、ピンク色で潤いのある唇。
 不自然なほどの色白さと前髪が隠れるくらいの長髪は健在だが、それらを除けば僕の要素はほとんど感じられなかった。
 その似た目から小学生くらいだろうか?
 当時の姿に戻ったとして僕はこんなに可愛らしい似た目をしていたのかとしっくりこなかった。
 でもよく目を凝らしてみれば、確かにそれは僕自身だ。
 十数年後の姿は酷く落ちぶれた容姿になっているけれど、間違いない。
 どうやら僕は、小学生の姿に戻ってしまったらしい。
 何故こんな姿になってしまったのか、どんなに想像しても混乱を深めるだけだった。
 悪い夢でも見ているのだろうか?
 しかし夢とは思えない程僕の意識はこの世界に存在していた。
 夢なら、決定的な何かが現実と比べ欠けているものだ。
 それは僕の感覚的なものに過ぎないけど、生きているという実感が夢の中では確かに不足しているのだ。
「現実・・・なのか?」
 そう呟く僕の声も高音で透き通っているものに変わっていた。
 次第に鏡に映る違う自分の姿に恐怖を覚え、逃げる様にリビングに戻った。