〈最後にあなたに会いたいけど、もうそれは叶わない。あなたを一方的に振ったあの日から、私はもう二度と会わないと決めたから。
きっとあなたは私を憎んでいる。もう私に会いたいなんて思わないでしょう。あなたに違う誰かと幸せになって欲しいと思い決心したことだけど、正直後悔してる。
一番私が幸せにしてほしかったはずなのに、あなたの隣に居続けたいと世界一思っていたのは私だったのに。
もう一度あなたに会いたい、抱きしめてもらいたい、この足が動くなら、今すぐ走り出してあなたの元へ駆けていきたい。
でももうそれは叶わないことだから。諦めて死んでいくのを待つしかないんだ。
この世界に神様がいるのなら、最後に一つ、私の願いを聞いてもらえませんか?
病気を治してほしいとか、幸せだったあの時に時間を戻してほしいなんて無理なことはいいません。
夢の中でもいい。永遠に目覚めることなく死んでいっても構わない。
最後に彼と、会わせてください〉
「その日記を読んでるってことは、もう彼女の正体には気づいているのかな」
急に低い声が聞こえ、僕は肩をビクつかせる。
自分とユリナではない声を、この世界で初めて聞いたからだ。
声のした方向を見ると、ほっそりとした男性が壁に持たれてこちらを見ていた。
紺のジーンズに半袖の白シャツ、硬そうな髪は横分けにされセールスマンのようだった。
年齢は三十代前半ぐらいだろうか、若干疲れが滲みでているような表情や落ち着いた雰囲気からそれくらいだろうと予想した。
問題は彼の声が、顔の作りが、僕と酷似していることだった。
「近くで見るとやっぱりかわいいな。俺って子供の頃はかわいかったなって、我ながら思ってたんだ」
男は低い声で空気をよく振動させた。
聞けば聞くほど間違いない、これは僕の声だと確信した。
小学生の姿の今だとまだ高い声のままだが、中学生の変声期を気に僕の声質は急激に低くなっていった。
僕は目の前にいるもう一人の自分を真っ直ぐに見据える。
「あなたは、僕なんですか?」
似た目と言い言動と言い、それ以外考えられない。
男は僕の質問には答えず、視線を逸らしてほくそ笑む。
「場所を変えよう。ついて来て」
そう言って部屋の引き戸を開け出て行った。
状況が飲み込めないまま病室に取り残され、僕は早足で彼の背中を追いかけて行った。