そしてなにより、僕は深夜帯じゃないと外に出られない。
 理由は単純、人と会いたくないからだ。
 深夜のコンビニの店員と数秒接するだけでも寒気を覚えてしまう。
 街を歩いていても、知らない人間に見られていると想像するだけで吐き気を感じてしまう、要は人間不信に陥っているのだ。
 なるべく人目を避けて細々と生活したい、夜行性になったのはそういう理由が大きいのかもしれない。
 はぁ、と深くため息をつき溜まった灰皿の横に置いてある煙草の箱を手に取る。
 蓋を開けて煙草を掴む指を伸ばすも中身は一本も入っていなかった。
 おいおい、勘弁してくれよ。
 ほんとに無くなっているじゃないか。
 周囲を見渡すもどれも空箱でこの部屋には煙草の一本も残されていなかった。
 買い足しに行かなくてはいけない、でも昼の世界に身を投げるのは今の僕には自殺行為に等しい。
 しかし煙草を我慢するのもまた、自殺行為だ。
 僕にとっては数少ない生きがいの一つなのだから。
 買いに行こうか、そう考えが過ぎるも閉め切ったカーテンの先にある光の世界を想像すると身が竦む。
 どうしようか、散々迷った結果外に出ることを決めた。
 やはり中毒症状には勝てない。
 コンビニまで歩いて五分、日傘でもあればいいのだがそんな高貴なものは生憎持ち合わせていない。
 ソファから重い腰を持ち上げようとしたその時だった。
 足元に柔らかな布を踏んだ感触があった。
 絨毯など敷いていない剥き出しのクッションフロアにはありえない肌触りだ。
 そこで初めて足元を見る。
 もっと早く気付くべきだったのかもしれない。