彼女はきょとんとして、「色々って何のこと?」と聞いてくる。
「元の世界で僕達が恋人同士だった時の話だよ」
「えっ?恋人?何の話をしているの!」
 彼女は跳ねあがって僕から離れる。
 その反応からして、彼女は何も知らないのだろう。
 なら、僕にできることは一つだけだった。
「冗談だよ」
 僕も上体を起こし、彼女が馬乗りになり向き合う形になる。
 右手を彼女の頭の上に乗せ、髪を解くように指先で撫でる。
 そこで僕は笑って見せた。
 いつものぎこちない愛想笑いではなく、本心から生まれた屈託のない笑みを。
「リョウ君・・・一体どうしたの?」
 彼女は頬を赤らめ困惑していたが、頭に乗せられた僕の手を振り払うことなく撫でさせてくれた。
 僕が彼女に唯一できること、それは傍にいてあげる事だ。
 元の世界で僕ができなかった、傷ついた彼女の心を少しでも救うことができたかもしれない唯一の手段。
 僕にできる事なんて、その程度しかないのだから。
 例え元の彼女がここにいなくても、僕の事を忘れていたとしても、今目の前にいる少女だって紛れもない木村ユリナなのだから。
「最後まで一緒にいよう」
 それが僕の出した答えだった。
 人が消え、愛した人の記憶を失い、時間の概念が無くなった永遠の世界に閉じ込められていたのだとしても、僕は君を変わらず愛し続けよう。