僕はペダルをひたすら回し続けた。
 自分の息遣いも、抵抗するように当たる風も、変わる町並みも、何も気にならなかった。
 ただ前だけを見て漕ぎ続け、頭の中はユリナの事でいっぱいだった。
 もうすぐ死ぬ?残された時間が短い?他の誰かと幸せになってくれ?
 わけが分からない!一体どういう事なんだよ!
 捨てられていた彼女のメモを見る限り、僕達が恋人同士だということは間違いないだろう。
 途中別れてしまった理由は、恐らく彼女の死が近い事に深く関係があるのだろう。
 だとしたら、元の世界の僕は何をやっていたんだ?
 彼女の死を悟ったのち別れ、何もせず思い出をあの畳の底にしまっていたのか?
 違う、手紙の中で彼女は自分が今後どうなるかを伝えるわけにはいかないと書いていた。
 僕は彼女の事を何も知らないまま、別れてしまった。
 恐らく彼女から別れ話を切り出されて、納得できないまま関係を断ち切られたのだろう。
 彼女という支えを無くした僕はあっという間に転落していき、それからは僕自身がよく知っているどうしようもない人間へと堕落していったのだ。
 実際彼女がどれだけ苦しんでいたのか、自分の幸せを捨て僕に前を向かせるために目の前から姿を消した、その決心を知らないまま塞ぎ込んでいたのだ。
 バカだ、どうしようもないくらい・・・バカ野郎だ!
 お互い一緒にいたかったはずなのに、肝心な時に本当の思いを押し殺してしまうなんて。
 僕もユリナも一体何をやっているんだ!
「このままじゃいけない!絶対に、終わらせてはいけないんだ!」
 額から汗が滴り目に染みた。
 気づけばシャツの中がベタベタしていて、張り付いてくる感触が気持ち悪かった。
 彼女が今どこにいるのか。見当は一つしかない。
 きっとそこにいることを信じて、僕はさらに自転車を漕ぐスピードを上げた。