そして僕はまた彼女の部屋を訪れていた。
 以前よりも細かく、念入りに手掛かりがないか探した。
 触りにくかった衣類の入った衣装ケースの引き出しをすべて開け、中を取り出して紙か写真でも挟まっていないか見たり、クローゼットに入っていたコート類のポケットを探ったりしたが何も見つからなかった。
 クローゼットには何もなさそうだなと折れ戸を閉めようとした時、奥の方に丸い筒の様なものが置かれていることに気付いた。
 潜り込んでそれを手繰り寄せると、それはゴミ箱だった。
 中にはティッシュや紙くずが容量の半分ほど埋まっていた。
 盲点だった、この部屋に入ってからゴミ箱がないことに気付かなかった。
 まさかクローゼットの中にあるなんて、彼女はゴミ箱を見える場所に置きたくなかったのかもしれない。
 綺麗好きな人だとありそうな話だ。
 ゴミ箱をひっくり返し、紙類を中心に集めて広げ、中身を確認していった。ほとんどがお店のレシートや領収書ばかりだ。
 紙を広げた時、A4の日記帳ページを破いたような紙が見つかった。
 その中に数行に渡って文字が綴られていた。
「見つけた」
 ボールペンで書かれた丸みを帯びた小さな字、目を通すと以前見つけたメモの続きのようなことが書かれていた。
 リョウへ、の書き出しから始まる。

〈私はもうすぐ死ぬ。だから彼の傍にはいられない。
 残された時間が短い事を伝えても、彼は私を変わらず愛し続けてくれるだろう。でも私がいなくなった後、彼はどうなる?
 きっと優しい彼は、私を忘れてくれないだろう。
 もちろんそれはすごく嬉しい事だけど、彼は今後新しい恋人を作ることに躊躇してしまうかもしれない。
 私の人生はあと数年で終わりを告げる。
 でも彼はこれから何十年も生きて行かなくてはいけない。
 彼に十字架を背負わせ、幸せへの足枷になりたくない。
 幸せになって欲しい、私ではない、他の誰かと。
 それが私にとっての、幸せでもあるから。
 どうか私の事は、もう忘れて下さい〉