落ちていく感覚があった。
真っ暗闇の中、周囲は不気味なほど静かで、自分が今どこにいるのか確認することもできなかった。
手足を動かしているつもりでも実際動かせているのか分からない、今自分が呼吸できているのかも分からない、それくらい全ての感覚を感じさせない場所だった。
両手を広げ、深海の奥へゆっくりと沈んでいっているような、心地の良い空間。
無の世界とでもいうのか、余計な全ての物を無くした場所は寂しさよりも心に平穏をもたらしてくれた。
このまま眠ってしまおう。
目を閉じると変わらず真っ暗で、だからこそ自然に眠りにつくことができた。
そうして僕は、いつも横たわっている自室のソファの上で目覚める。
目を少し開くと太陽の光がカーテンの隙間から差し込んできて、思わず視界を手の平で覆った。
瞼を閉じたままゆっくりと起き上がりソファに座る形になる。
外が眩しい、こんな昼間に起きることができたのはいつぶりのことだろう。
引きこもり生活を続けているとよくあることだと思うが、僕の生活リズムは昼夜が逆転していた。
昼間と夕方は眠り、深夜に目を覚ます。
そこからお酒と煙草を交互に窃取しながらテレビを見るなり本を読むなり好きなことをして時間を潰している。
お腹が空くと箪笥の中に溜め込んだカップラーメンを食べることで手軽に腹を満たすことができた。
そんな典型的なだらしのない生活を続けている弊害で、太陽の光を浴びると僕の体は溶かされていくような感覚を覚えるようになった。
夜行性故に吸血鬼の体に近づいてしまったような、そんな都合のいい解釈で昼間に活動することは避けてきた。
「やっぱり、太陽嫌いだな・・・」
だからといって再び眠りにつく気にはなれなかった。
自分でも驚くほど目が冴え頭の中がすっきりとしていたからだ。
毎日十時間位寝ているのに、ここまで清々しい目覚めは感じたことがなかった。
参った、このまま今日を過ごすと夜には眠くなる。
そうなれば次の日これくらいの時間に再び目覚めてしまうのかもしれない。
むしろ健康的だからそっちのほうがいいのではと他の人は言うのかもしれないが、自分からすれば生活リズムを崩してしまう方が精神的な背徳感を覚えてしまうのだ。
今まで積み上げてきたスタイルを崩し変えてしまうことは自分自身の意思に反してしまうような気がする。
僕にもそんなくだらないこだわりの一つはあるのだ。