「お腹空いてるかなって。作ってあげたんだよ。でもいつまでたっても帰って来ないから」
 そう言う彼女の声は小さくなっていった。
 そういえばキッチンの方から香ばしい匂いが漂ってきている気がする。
 徐々に表情が陰りを見せ始め、沈んでいくように下に項垂れた。
「そんなに寂しかったのか?」
「寂しくなんて、ないもん」
 さっき寂しいって言ってたじゃないか。
「悪かったって」
 僕は彼女の頭に手をポンと置き、髪の流れに沿って解くように撫でた。
 ひんやりとした感触が心地よかった。
 まんざらでもなかったのか、彼女は顔を少し上げ上目づかいにこちらを見た。
「また、子ども扱いしてる・・・」
 拗ねたように言う彼女に、僕は笑いながら返す。
「お互い子供だろ?」
 それが気に入ったのか、彼女は「そうだね」と籠った声で言った。
 撫でる手を止めて、自分のお腹の上に置く。
「お腹空いたなー」
 そう言うと彼女は「待ってて、すぐ用意するから!」と張り切った様子でキッチンの方へ走っていった。
 元気になってよかったと思うのと同時に、もし彼女がこの世界の全てを知っていて、これらが全て演技だったのかもしれないと思えば思うほど、胸が締め付けられるような苦しみを覚えた。
 きっと何かを知っているはずなんだ。
 いつその話を切り出すべきなのか、タイミングを見定めなければならない。
 僕はポケットに手を突っ込み、部屋から持ってきた例のメモを確かめる様に触った。