この手紙のいう彼というのは恐らく僕の事だろう。
 二人だけを世界に閉じ込めて、そこで永遠に過ごせたら幸せじゃないかな?の部分が特に決定的だった。
 何をどうやったのか知らないが、言葉通りの意味だとしたら、僕は彼女の意図でこの世界に閉じ込められたことになる。
 要因は全て彼女にあったということか?
 さらに文面から察するに、彼女は周囲の人間や環境を酷く恨んでいるように思えた。
 彼女の身に何があったのかは知らないが、元の世界で僕達が仲睦まじく付き合っていたとしたら、果たしてこんな事をメモに書いていただろうか?
 私と彼以外いなくなってしまえ、というのも何故周囲の人間が消える必要があったのかと疑問に思う。
「本当に僕達は、付き合っていたのか?」
 その前提から怪しく思えてきた。
 置かれた写真を見る限り、二人の間で何かしらの関係性はあったのだろう。
 そして彼女は僕に好意を抱いていたのであろうと手紙の内容からは捉えられる。
 しかし僕自身はどうだったのだろうか?
 僕にとって彼女はどういう存在だったのか?
 何故彼女はこんな歪んだ文章を書く必要があったのか、動機はなんなのか?
 予想されることは、現時点で二つ思いつく。
 一つは、僕達は付き合っていて、でも何かのきっかけで破局して、彼女は錯乱状態に陥り、別れた責任を自分以外の何かにぶつけるためにこれを書いた。
 もしくは、僕達は恋人でも何でもなくて、彼女が一方的に僕の事を愛していて、でも僕には違う恋人がいて、だからこそ周囲の人間や環境を恨んで僕たち以外消えてしまえと綴り願ってしまったのか。
 どちらがしっくりくるかと言えば、僕の中では後者だった。
 彼女は僕を手に入れる為に二人だけの世界を作り出し、都合の悪い記憶は全て取り去り、初めて出会った様な演出を施し、僕達は自然と恋に落ちていく。
 そんな顛末だ。
 つまりここは彼女の欲望が作り出した都合のいい世界。
 それに僕は付き合わされているというわけだ。
 それが本当だとしたら一刻も早くこの世界から脱出したいと思った。
 何の確証もないイメージに過ぎないが、今の時点では一番しっくりくる仮説ではあった。
 詳しくは、ユリナ本人に聞いてみた方がいいだろう。
 僕は紙をポケットに入れ、黒い表紙のミステリー小説を持って部屋を後にした。