元の世界で、僕達は付き合っていた。
 もちろんそんな覚えは一つもない。
 あくまで見えた情報を繋げるようにして作り出した仮説にすぎなかった。
 恋人同士だった僕達は、何かのはずみでこの世界に陥ってしまう。
 姿は小学生に戻り、記憶は一部無くなり、まるで初めて出会った時のように僕達は再会をする。
 互いの本当の正体を知らず、他に誰もいないから僕達は自然な成り行きで関わりを持つことになり、そうして今に至る。
 どうしてこんなことになってしまったのか、そうすることで何の意味があったのか、なんて考え出したら途方に暮れてしまうだろう。
 予想できるとすれば、僕の元へ手紙を送ってきた謎の差出人が何かを知っているということだけだ。
 とにかくそいつに会わなくてはいけない。
 元の世界に戻りたいとは決して思わないが、なぜこうなってしまったのかという経緯や意図は知っておきたかった。
 人のいない好き勝手できる楽園とはいえ、自分の立っている場所を知らないまま終末の瞬間をのびのびと待っていられるほど、僕の肝は据わっていない。
「とにかく、何か手掛かりを」
 そう思い、目に着いた場所を片っ端から調べていく。
 衣服が掛けられたクローゼット、学習机の引き出し、ベッドの裏や絨毯の下など隅々まで見ていったが僕と彼女の繋がりを示すようなものは見つからなかった。
 手がかりは化粧台に置かれた一枚の写真だけ、これだけでは何も分からない。
 必死に部屋中の至る所に視線を送っていくも目ぼしいものは見当たらない。
 額から汗が滴り、僕の目に染みた。
 手の平で拭ってみるとべっとりとした汗が付着した。
 この部屋に入ってどれくらいの時間探し続けたのかは分からないが、閉め切った部屋でずっと動き回るのは思った以上に消耗が激しかった。
 休憩しよう、出窓を開けて蒸し暑い空気を外へ排出し、新鮮な空気を室内へ取り込む。
 キャスター付きの椅子に腰を下ろし、天井を無心で見上げて目を閉じる。
 出窓から入る涼しい風が火照った頬に当たって心地よかった。