「何だ、この写真は・・・?」
 何度見ても写真に写る男は僕、香山リョウだった。
 しかし写真に写る女性を、僕は知らなかった。
 彼女は一体何者なのだ?
「僕は・・・ユリナのお姉さんと関りがあったのか?」
 部屋に置かれた唯一の写真立てに僕達のツーショットが飾ってあるのだ。
 ただの友達ではない、恋人と考える方が自然な流れだ。
 しかし肝心な僕自身は写真に写る女性の事を何一つ思い出せない。
 全くどうしてしまったんだ、僕の記憶は。
 重要な部分が全て抜け落ちているじゃないか。
 まるで使い物にならない。
 側頭部を手の平で叩き、華やかな微笑みを浮かべる女性の写真を眺めた。
 綺麗な人だ、ユリナも大人になったら、こんな素敵な女性になるんだろうなと想像した。
 感情の移り変わりが激しい所や元気溌剌な部分ばかりに目を奪われてしまうが、ユリナも顔だけを見れば目鼻立ちがはっきりとした可愛い女の子だ。
 そこで僕は引っかかりを覚えた。
 頭の中を過ぎった考えはいや、まさかそんなはずはと反射的に否定したが、すぐにまた引っかかりを覚えて一度葬った考えを蘇らせていく。
 ありえない話ではない、一度考え始めてしまうと想像が止まらない。
 むしろこの状況では、そう考えた方が色々と辻褄が合ってしまうように思えた。
「ユリナは、僕の恋人だった?」