くすぐったい感触を覚えて僕は目覚める。
目を開けると自室の天井が映った。
表面は所々経年劣化でひび割れ、貼られたクロスは煙草の煙を吸い過ぎて黄ばんでいる。
胸のあたりにじんわりと広がる様な温もりがあった。
額から汗も滴り手の平で拭ってみるとべっとりと汗が拭われた。
「スー、スー」
首元がまだくすぐったい。視線を下ろしてみるとその正体が分かった。
なるほど、君のせいか。
ユリナは僕の上半身を抱き着くように手を回し、頭は僕の頬に触れていた。
自室のベッドで、男女の小学生が二人きりで眠っていた。
その内一人は甘える様に密着している。
決していかがわしい事をしていたわけではない。
確かに僕は一人で布団に潜ったはずだ。
僕が眠った後彼女が勝手にベッドの中に侵入してきたのだろう。
窓のカーテンから光が射しこんでいる。
まだ外は明るい。
ベッドから起き上がろうと状態を起こすのと同時に彼女の一定の間隔で刻まれていた寝息が止み「ん、ん・・・」と声を漏らしていた。
心地よさそうに眠る彼女を起こさないようそっと起き上がったつもりだったが、微妙な変化を感じ取られ起こしてしまったようだった。
そういう所は案外繊細なんだな。
両目が徐々に開いていき、僕を視界に捉えるとクスリと笑った。
「・・・リョウ君、おはよ。ふぁあぁ」
寝起き特有の細い声で彼女は言う。
あくびをしている辺りまだ眠たそうだ。
眠る前まであんなに活発に動いていたんだ。
その分消耗が激しくて当然だろう。
僕はベッドから足を下ろし、窓の方へと向かう。
カーテンを開くと雲一つない晴天がまだ世界を覆っていた。
「なぁ、僕達何時間位眠ってたのかな?」
「うーん・・・わかんないよぉ」
布団を頭から被り彼女は外界の情報を遮断する。
僕はダイニングまで早足で歩き、テレビの前に置かれたソファに腰掛ける。
いくらなんでもおかしい。
どれだけ経っても太陽が沈まない。
沈まないどころかその位置から微動だに動いていないようにも見えた。
少なくとも僕が初めてここで目覚めてから五時間以上は経っていると思う。
あくまで個人の体感だから正確には分からないけど、とっくに夕方になってもおかしくない位の時間は確実に過ぎているはずだ。
立ち上がって再び寝室へ戻る。
ベッドボードの上に寝転がった目覚まし時を手に取って、表示された時刻を確認する。
そこで僕は初めてこの世界の時間を目にした。
電波時計が表示する時間は午後零時零分零秒。
最初は時計が壊れているのかと思った。
箪笥の引き出しを開き、まだ会社で勤めていた時に使用していた腕時計を久しぶりに取った。
三つの針は全て十二の数字を指しており、先程の電波時計と意味する時間は同じだった。
時計をしまい、再びリビングに戻ってテレビをつけるとザーと耳障りな音を立て砂嵐の映像が流れた。