面材の嵌められたシースルー手摺を手の平で滑らせながら、スパイラル状の木階段を上っていく。
大きなフィックスサッシが街の情景を映し出し、天井の木貼りは木目がデザイン調になり木に包まれた柔らかな空間を演出していた。
ユリナはひたすら上を目指して歩き続ける。
この先に何があるのか見当もつかない。
建築された当時、小さい頃に一度来たことがあった程度でどのような施設が設けられていたのか覚えていない。
歩きながら見渡した辺り、バルコニー付きのカフェや地元の物産館などがあり観光客の楽しめる受け皿が多く用意されているように見えた。
地元の人間からすれば、生活の何の足しにもならないので煙たがられそうなものばかりだろうが。
観光客からしても、個性がありそうでどこにでもありそうな店ばかりだから、一度来れば充分と片付けられてしまいそうだった。
次の段板へ足を踏み出そうとした時、太腿辺りがプルプルと震え始めた。
ここにきて筋肉疲労が体を蝕んできた。
ユリナを後ろに乗せて自転車を漕ぎ続け、ショッピングモールを巡り、無限に続いているように思える螺旋階段を上り続けているのだ。
これで疲れない方がどうかしている。
「ユリナ、まだ上るのか?」
話しかけても彼女は立ち止まる事なく黙々と階段を上り続ける。
休憩しようと言った時も、同様に無反応だった。
今彼女の耳には情報の全てが遮断されているようで、感覚の全ては別のものに支配され目には見えない何かを求めて歩き続けているようだった。
「まったく・・・」
シースルー手摺を強く握り、力を振り絞って次の一歩を踏み出す。
足の裏が軋むように痛んだが、歯を食いしばってまた一歩踏み出していく。
早くこの地獄の時間が過ぎ去って欲しいと思った。
頼むから、これ以上僕に運動させないでくれ。
この後来た道を戻り家に帰らないといけないと思うと、先が思いやられた。