「この道、私知ってる」
 背中にしがみついたユリナはそう呟く。
 僕達は音楽店を最後にデパートから出て、自転車に乗り帰路を進んでいる途中だった。
 自転車の籠にはデパートで取ったクマと盗んできた子供用の服や靴の袋がぎゅうぎゅうに詰められていた。
物静かな繁華街を通り、誰が捨てたのか分からない煙草の吸殻が道端にいくつも落ちていた。
「え?」と僕は言葉を返し自転車のブレーキを握る。
 キキッと耳障りな音を立ててスピードが落ちていく。
 彼女は自転車が完全に止まるのを待たずキャリアから飛び降り、周囲をキョロキョロと見渡している。
 楽器店の件に続き、また何かを思い出したのだろうか?
 デパートの件といい、案外記憶の欠片がそこら中に散らばっているのかもしれない。
 その欠片を集めていくことで徐々に形を帯びていき、損失した記憶を取り戻すことができるのかもしれない。
 それは僕の記憶も同様の事が言える。
「今度は何を思い出したんだ?」
「・・・分かんない。でも、こっち」
 彼女は僕に目もくれず言い、帰り道とは反対方向に歩き始めた。
 また、ついていくほかないようだ。
 自転車を方向転換し、彼女の背中を追いかけていく。
 ゆっくりとした足取りで目的地の分からない場所へと進み続ける彼女は、何かに取り憑かれてしまったように見えた。