「何この顔!?おかしいっ!」
 プリクラ写真を見た彼女は腹を抱えて爆笑していた。
 無理やり撮らせておいてそれはないだろう。
 子供というのは正直過ぎて傷つく。
「もう!だから溶けるって!」
 彼女は僕のカップアイスに自分のスプーンを突っ込み掬う。
 ゲル状になったアイスは掬い上げられるととろみがついて一部が下に滴る。
 そのスプーンが、僕の口元まで運ばれてくる。
「ん!」
 口をへの字にしてこちらをジーと見ている。
 口を開けろっということだろう。
 小さく開くと、その隙間にスプーンが突っ込まれた。
 チョコレートが頬を刺激してくるような甘みを感じながら、強制的であったものの間接的に彼女と接触してしまった事に対する背徳感を覚えた。
「自分で、食べられるよ・・・」
 スプーンから口を離し、椅子を引いて彼女と距離を取る。
 気になることがあれば正さないと気が済まない質なのだろうが、食事くらい自分のペースで食べさせてほしい。
 なによもう、と彼女はそっぽを向き、気を紛らわせるようにアイスをお茶漬けのように掻き込んでいく。
 いたーい!とすぐにアイスクリーム症候群を引き起こし机に突っ伏して悶絶していた。
 痛そうだなーとその光景を眺めながら僕は少量のアイスを救って食べていく。
 彼女がうぅーと悶えている間、出会ってから気になっていた質問がいくつか蘇ってくる。
 今までは彼女のその場のテンションに振り回され聞く機会を得られずにいたことだ。
「ユリナは、ここに来る前の事をどこまで覚えているの?」
「うぅ・・・え?」
「ここに来る前にいた世界のことだよ。普通に小学生やっていたとか、家族は父と母と妹がいたとかさ」
 数時間前それに似た質問をした、その時は君の家はどこにあるの?だった。
 彼女は家がどこにあったのか覚えていないと答えた。
 僕はこの時彼女の記憶が一部損失しているのかもしれないと思った。
 そう思う動機は僕自身の記憶にあった。