ようやく彼女の目を引く場所を見つけたのは六階に到達した時だった。
 やかましい位の電子音が聞こえてきて、そこで降りると案の定ゲームセンターが広い範囲で設けられていた。
「遊園地みたい!」と少女は走り出してゲームセンターの中に駆け込んでいく。
 遠ざかっていく彼女の背中を見てさすがに同じ速度で付いて行けなかった。
 本当に元気だな、出会ってからぶっ通しで遊んでいるのに、まだまだ有り余っているように見える。
 同じ小学生の格好をしていても、同じようなパフォーマンスをするには難しいほど僕の精神は廃れていた。
「早くー!走ってー!」
 彼女はクレーンゲームのパネルに両手をついて足をジタバタさせている。
 全く、彼女の遊びに付き合うのは体力がいくらあっても足りなさそうだ。
 夢なら早く覚めてくれ。
 走ってという言葉を無視して僕はゆっくりとした足取りで彼女の元へと歩く。
 追い付いた時には咎められると思ったが、彼女は僕の後ろに回って両手を腹部に回してきた。
 二人乗りをしたときと同じような形になり、「お疲れだね」と彼女は僕のシャツに顔を埋めくぐもった声で言う。
 そう分かってるなら休ませてくれ・・・。
「あれ、欲しいなぁー。でもお金ないからリョウ君取ってよ!」
 小さな指先が指す方向にはクレーンゲーム内に寝転がっている大きなクマのぬいぐるみがあった。
 クレーンアームの爪も対象に合わせて大きな形をしていたが、僕はこのゲームの一連の流れと落ちを知っている。
 アームは前後左右自由に動かせ、ボタンを押したらアームが下がっていき、狙った場所がよければ景品をしっかりと掴んでくれる。
 そのまま持ち上げてくれるところまではいいものの、途中でアームの握力が激減し景品を上げきる前に落としてしまう。
 落下した景品はバウンドしあらぬ方向に移動するという、そんな落ちだ。
 ゲームセンターに通い詰めていた時期があったが、この類のクレーンで成功した試しは一度もない。
「これは難しいよ。他のゲームにしようよ」
「えー!これがいいっ!取ってよー!おーねーがーい!」
 今度は両肩を掴んできて前後に激しく揺さぶってくる。
 どうやらあのクマに一目惚れした様だ。
「分かった、分かったよ。じゃあお金出すから、やってみるといい」
 実際にやらせてどれだけ無謀なのかを分からせた方が話は早い。
 四、五回やって駄目ならきっと拗ねて違うゲームをすると言い出すだろう。
「やったー!ありがとー!」
 両手を掲げてはしゃぐ彼女、一頻り喜び終わったら現実を思い知る番だ。
 僕は黒の長財布から五百円玉を取り出し、ゲーム機に投入する。
 愉快な電子音が流れ始め、六十秒という制限時間が操作パネルの横に表示される。
 彼女は張り切ってクレーンの前についた。
「よーし!やるぞー!」