何をしようにも力が入らない、空虚で無意味な日々を蛇足に生きるしかない。
 雨を体全身で浴び、最初こそ苦痛だったものの次第に感覚が失われ寒さを感じなくなる。
 数分後にはぬるま湯のシャワーを浴びているように心地いいとすら思えるようになった。
 狭い住宅街の路地を歩き続け、もう少しで曲がり角に差し掛かる。
 外灯の光は浮いた水たまりに反射され、どこか神秘的な輝きを放っていた。それらを踏み歩いて前に進んでいく。
 引きこもりの生活を始めてもう少しで一年が経とうしている。
 高校を卒業して入った会社を四年で辞め、わずかに貯めていた貯金を食いつぶしながら今日まで生きながらえてきた。
 それももう少しで底をつく。
 働かなくてはいけないのに、どうしても行動に移すことができないのだ。
 人が怖い。
 人間不信故に足が竦んでしまい、次の一歩を踏み出すまでに至れない。
 そう陥ってしまったのは、唯一信じていた人に裏切られたからだ。
 あの絶望感は今でも忘れられない。
 君は僕の人生の全てだった、それが前触れもなく唐突に終わりを告げたのだ。
 当時は全て上手くいっているように思えた、でもそれは違った。
 結局僕の思い過ごしで、君にとっては大切でも何でもなかったんだ。
 そう思った後は簡単だった、世界の全てが牙を剥いたように、心をズタズタに切り裂き廃れていった。
 要は堕落していったのだ、心の支えを無くした人間なんて風に吹かれたビニール袋の様で無抵抗に飛ばされていってしまう。
 君さえいてくれれば、いや、君と出会わなければ、僕はこうして落ちぶれることはなかったのかもしれない。
 僕がこんな酷い有様になってしまった根本的な原因は、全て君にあるんだ。
「大嫌いだよ」
 そう吐き捨て路地の角を曲がる。そこで僕は立ち止まった。
 下に俯きながら歩いていると、外灯に照らされ伸びた人影が僕の足元に映ったのだ。
 こんな深夜に、僕以外に出歩いている奴がいるのか。