休憩を小刻みに取りつつ、一時間程漕いで来ただろうか。
 すっかり住宅街を抜けアーケード街に入り、様々なセレクトショップやカフェといった娯楽施設が通り沿いに展開されていた。
 地元では屈指の繁華街で、深夜まで営業している店も多く普段は大勢の若者が集っている。
 そんな面影も今はなく、シャッターは開き電気は点いているのに誰もいない、違和感故の不気味さが漂っていた。
 これがただのシャッター街なら何も感じなかっただろう。
 タイル調の通りを二人乗りしている小学生が堂々と進んでいき、端まで進み終えると大きなショッピングモールにぶつかった。
 全国展開されている大規模なモールで、今目の前にあるのは本館と新館と二つ館が分かれどちらも十階建てと県内最大規模のデパートだ。
 入口の前でブレーキを引き、自転車は徐々にスピードを落として停止する。
「すごくおっきい建物だね。何階建てなのかな?」
 アーケードに入ってから物珍しそうに周りをきょろきょろしていたユリナは呟くように聞いてきた。
「十階建てだよ」と答えると「すごい、こんな所があったなんて」と目をぱちくりさせながら言う。
「リョウ君は来たことあるの?」
「うん、地元だからね。何回かは」
 それこそ学生時代の話になるのだが、よく友達と来ていたのはこのアーケード街だ。
 この場所が好きだから来ていたわけではなく、暇を潰せそうな場所が他にないから仕方なく訪れていたのだ。
 社会人になり友人とも疎遠になってからは、わざわざ人混みに身を晒す必要性を感じられず行こうとも思わなくなった。
 こうしてこの建物を見上げると、当時の記憶が蘇ってくるようで懐かしい気持ちになった。
 あの時は考えもしなかったが、今思えば楽しかったのかもな。