「きゃーあ!」と彼女は大袈裟に喜んでいるようにも取れる悲鳴を上げる。
 加速しないとバランスを崩して倒れてしまいそうだ。
 僕はペダルを力強く回しスピードを一気に上げた。
 カーブに差し掛かっても人がいないので懸念するべき歩行者も自動車も通っていない。
 その為自信をもって漕ぎ進むことができた。
 路地を抜け、県道に差し掛かると自転車は道路の真ん中に躍り出た。
 すっからかんの道路は不気味なほど広く感じ、進むべき道は障害物がなくクリアに見渡すことができた。
 物損はともかく、対人の事故を起こすことはまずありえないだろう。
 目の前の信号が赤に点滅するも、気にも留めず真っ直ぐに交差点を走り抜けた。
「信号無視!違反だぁーいけないんだぞー!」と彼女は浮いた両足を振り回してはしゃいでいる。
 もはややりたい放題だ。
 車の通らない道路、意味をなしていない信号機、閑散とした住宅街に人の出入りがない施設類。
 目の前には黄色のセンターラインが進む方向を定めているように遠くへ真っ直ぐと伸びている。
 面白いなー、映画のワンシーンでありそうな光景だ。
「ねぇーもっと飛ばしてよぉー」
 少女の退屈そうな声が後ろから聞こえる。
 全く、無茶言うぜ。僕は風を求める様にペダルをさらに力強く回していった。
「きゃーあ!」と彼女はまた大袈裟にはしゃいでいた。