結局これは夢なんだろうか?
 しかしそう落とし所をつけようとするには少女の存在が邪魔をしていた。
 人間がほとんど消え失せたのはそういう結末を心のどこかで願っていたから分かる。
 小学生の姿に戻ったのも人生をやり直したいと願ったことがあるかもしれないからまだ分かる。
 記憶が所々混濁しているのも、夢だと思えば説明がつく。
 なら彼女は何だ?
 夢というのは自分の願望や様々な外的要因が無差別に絡んで形成されるものだと僕は思う。
 僕は彼女を知らないし、元の世界で会っていたという記憶の断片すら見当たらない。
 陽気な少女と誰もいない世界で二人遊んで暮らすという、少年時代に満たされなかった欲求を拗らせてできたシチュエーション、と考えるにも自分の思う理想の女の子と比べて彼女は程遠い存在だった。
 僕の好みは黒髪ロングで陰りのあるミステリアスな女性だ。
 僕と同じような痛みを抱える、そんな傷を二人で舐め合うように肩を寄り添って生きていく。
 理想のシチュエーションはむしろそっちの方だ。
 少女の存在は、願望が見せる夢の世界で起こったイレギュラー的なものなのかもしれない。
 煙草で咽た衝動で荒れた呼吸が徐々に落ち着きを取り戻してくる。
 部屋に戻ろうか。
 重い腰をどっこいしょと足の力で持ち上げ、若干残ったヤニの弊害が立ち眩みを助長してくる。
 さて、これからどうしよう。
 取り巻く状況は変わっても外部の世界に変化は見られない。
 夢が覚めるまでいつも通りだらけた生活を続ける他ないか。
 一度捨てた煙草が惜しくなり、箱を拾って近くにあった水道メーターの箱の中に隠す。
 あの子にバレないよう気を付けないとな。

 部屋に戻るとユリナは起床しており、リビングのソファに座って僕の帰りを待っているように見えた。
 僕に気付いたユリナがこちらを見て、ぱぁと笑顔になったと思ったらそれは数秒後熱が冷めたように失われた。
「リョウ君、煙草吸った?」